短編

□妄想
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夕食に行こうとした時だった。
「アニキー、速くー!」
翔と剣山はレッド寮の狭い廊下で十代を待っていた。
「ちょっと待てって。今行くから」
十代は床に広げていたカードを片付けていた。
「僕もうお腹空いたよー」
「今の時間、皆空いてるドン」
「む。こんなことで揚げ足とらないでよ!」
「本当のことを言っただけザウルス」
「もー、ああ言えばこう言うー!」
翔は頬を膨らました。
「アニキ、まだー?」
「今行くって!」
翔はため息をつくと、柵に寄りかかろうと重心を後ろに向けた。
しかし背中にぶつかると思っていた柵に、いつまでも当たらない。
翔の背後は柵ではなく、階段だった。
「わ……わっ!」
気付いた時にはもう遅かった。
バランスが後ろに傾く、このままだと滑り落ちる。いや、下手をすれば頭からぶつかる。
恐怖に胃が浮いた。

「丸藤先輩!!」
腕を力強く捕まれると、そのまま引き寄せられた。
勢い余って翔は剣山の胸に抱き止められた。
「何やってるドン!? ちゃんと確認して…」
剣山の言葉が途中で消える。
翔が今までにない反応をしてきたからだ。
ぎゅうと細い腕を回され、しがみつかれた。
「こ、怖かったぁー!ありがとう剣山くん!!」
腕の力が緩まることがなく、密着度の高いままだった。
「………」
翔の肩に手を回していた剣山は、動けなくなっていた。

「おまたせー。ん? どうした?」
やっと十代が部屋から出てきた。
「あ、アニキ!」
翔は剣山から離れると、十代の方へ行った。
「もー、アニキのせいで僕、階段から落ちるところだったんすよ!」
ぷんすか怒っていた。
「え、なんで?」
話の流れの解らない十代は疑問符を浮かべていた。


「………」
その後の剣山は、妙に口数が少なかった。
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