海賊
□届け。
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手をどれだけ伸ばしても届かないものなんて、この世にはたくさんある。
でもそれらは諦めない限り届くと人は信じてる。信じてるから、手を伸ばすんだ。
でもやっぱり、諦めたくなる時だってくる。
「……コック」
聞こえないくらいの小さな声で呟いてみても、結局は届かない。
そんなこと分かってるのに。
あいつは今日もアホみたいに、ナミの元へ…
「ナーミっすゎんv」
突然、笑顔のコックがおれの顔を覗き込んだ。
…と同時にがっかりした顔にもなった。
「クソマリモっ!?何故ここにっ!ナミさんは??」
手におやつらしきものを持っている。きっと(ていうか絶対)ナミを探しにきたんだろう。
「…いねェよ」
「あ〜〜〜なんてことだ!ここから誰かに呼ばれた気がしたから来たのに、マリモしかいねェなんて!」
「呼ばれた…?」
コックの一言が引っかかった。
まさか、聞こえた訳じゃねェよな…
「おう、呼ばれた気がしたぜ?…まあ、いいか。んナぁミすわぁぁんっ!おやつですよぉ〜〜〜vV」
いつも通り、アホみてェにナミを探し始めたコックにため息をつく。だが、"呼ばれた"…?
(きっとあいつの気のせいだろ)
たまたまだ、と自分に言い聞かせる。無駄に期待しても傷つくのは自分。でも、
届け、……届け。
おれの声も、手も。あいつに届け。
静かにあいつの背中へ伸ばした手は、
触れることすらできない事に気づき、静かに空を掴んだ。
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