妖精の記憶
□6.明日へ向かうなら
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「いた!!」
グレイの発言を境に、みんなマスターに必死に呼びかける。
「じっちゃん!!」
「マスター!!」
なんと、カゲはマスター……マスター・マカロフの前で笛を構えていた。
『そんな!?ここにいる全員が危険だっ!!』
焦る僕等の前に、突然静止の声がかかった。
「しっ」
素早く出された腕にゆくてを阻まれた。
「今イイトコなんだから見てなさい。てかあんたたちかわいいわね」
語尾にハートだらけの言葉に、身の毛が逆立つのを感じた。
ナツとグレイも似たような表情で真っ青になっている。
うん、やっぱりこのギルドの人は苦手だ……。
「な、何この人!?」
ルーシィのドン引きの投げかけに答えながも、エルザは焦った様子を崩さない。
「青い天馬(ブルーペガサス)のマスター!!」
「あらエルザちゃん。大きくなったわね」
そんな周りのやり取りも、僕の耳には入っていなかった。ただ、マスター・マカロフの声だけが僕の中に響く。
たまにあるんだ。意識が自分の中から離れて、世界と自己が切り離されたような感覚。
こんなふうに、第三者が雑音のない世界を見つめてる。
「どうした?早くせんか」
カゲは、理由もわからず自分の身体が震えるのを感じた。
「さあ」
そう言って真正面から自分を見つめる老人を前に、一瞬の迷いとためらいが生じる。
マカロフは、その刹那の変化を見逃さなかった。
「何も、変わらんよ」
突如核心を突かれ、カゲは背筋の凍る感覚を覚えた。
「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし弱さの全てが悪ではない。もともと人間なんて弱い生き物じゃ」
マカロフはもう一度、カゲの瞳を見つめる。
「一人じゃ不安だからギルドがある。仲間がいる。強く生きるために寄り添いあって歩いていく」
二人のもとを離れて、僕は僕の元に帰ってきた。それでも、マスターの言葉から気持ちが離れない。
「不器用な者はより多くの壁にぶつかるし、遠回りをするかもしれん。しかし明日を信じて踏み出せば、おのずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける」
僕は、みんなから一歩後ろへと離れた。
「そんな笛に頼らなくても、な」
カゲは笛を取り落とし、続いてがっくりと膝をついた。
「参りました」
それを合図に、妖精の尻尾のみんなはマスター・マカロフに駆け寄る。
でも、僕は行けなかった。
涙が、止まらない。なんでだろう。
「あらあ?坊や、大丈夫かしら?」
マスター・ボブが優しい笑顔で振り返った。僕はすぐに頷く。
……心遣いはとてもありがたいが、やめて欲しい。
すぐに止まるだろうと思った涙は、なかなか止まらなかった。
しかも不思議なことに声は出ないし、流れる雫を拭おうとは思わない。
マスター・マカロフの言葉が温かく僕の中に染み込んでいて、気分はいいんだ。
みんなにもみくちゃされているマスター・マカロフが一瞬僕と目線を合わせて、明るく微笑んだ。
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