PAPA2

□お前を守る(後編)
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スモーカーさんが出て行ってからどれくらい時間が経ったのか。

あの時の彼の事を思うとどうして良いかわからないまま、私は今日の分の仕事を処理していく。

気のせいにしたいけど、段々体調が悪くなっていく。

いつもならここで無理しないで休憩をとるが、今日はまたスモーカーさんが来た時に仕事が進んでいない事がバレたら大変なので休むわけにはいかない。

まだ自分の中でスモーカーさんに本当の事を話すか話さないか、決断出来ていないから今はそうやって誤魔化すしかないの。

さっきの事を思って憂鬱になって、気分も悪くなって、決断出来ないあやふやな自分が嫌になって、無性に泣きたくなってくる。

でも泣いてる暇は微塵もないことは、未だにデスクに山積みになっている資料が物語る。

お腹に手を置いて複雑な気持ちのまま少し摩ってから再び両手を忙しなく動かしていった。

無心に、そう、無心に。









クソッ。

ハルの野郎は何か隠してやがる。

決して嘘を付くのが上手くないアイツが必死に隠すから余計に気になる。

何故俺に言わねぇ?

何故俺に隠し事をする?

そんな気持ちが溢れて、ハルに苛立って部屋を出た。

部屋を出てもこの苛立ちは消えない。

廊下ですれ違う海兵共が何やら色々挨拶してくるが、全て無視した。

頭の中は泣きそうになって必死になるハル。

クソッ。

俺の知らねぇ事でハルが泣きそうだと言う事実が気に入らねぇ。

今日は長かった出張からやっと帰って来れて、1番にハルに会いに行くと随分前から決めていた。

港に着いたら何故かハルの姿が見当たらない。

どうせ仕事に夢中なんだろうと思って部屋に行けば案の定だ。

それに少しは呆れたが、3ヶ月振りに会っても何も変わっていないハルが嬉しかった。

久しぶりに抱き締めたハルの感触に柄にもなく泣きそうになったのは誰にも言わねぇ。

このまま愛し合いたかったが、船を降りる時に後でセンゴクさんに報告に行けとタシギに言われたから仕方無く離れた。

それから昼頃にランチに誘いに来たら俺に気付く様子もなく、アイツの目線はパソコンと資料を行ったり来たりだ。

アイツが戦えない事を気にして、事務仕事を頑張っていることは俺の下に配属されて来た頃から知っているから、仕方無いと諦めた。

しかし夕飯になっても食堂にハルの姿はなく、部屋に行ってみればやはり俺に気付かず仕事をしていて、やっと終わったと思って声をかけようとしたらまた大量の書類を手に取ったからさすがに苛ついた。

いや、仕事がハルを独占してる事に苛ついたんだと思う。

そもそも何故コイツにこんなに仕事があるのか不思議だった。

今回俺の出張に対する報告書は全てタシギに任せて来たし、海兵共にもハルとの時間を邪魔しないようにと釘を刺したはず。

事務仕事に関してはタシギよりも優れているハルが半日以上処理しても終わらない事は今までに無かった。

それなのに目の前ではさっき以上に増えた処理の山。

可笑しい。

その考えが頭を過る。

だから俺はハルの目を見て問いただしたんだ。

質問と言うよりも尋問のような気もしたがどんどんハルの顔が焦って来るからますます声が低くなっていった。

今まで俺に隠し事なんてしなかったハルが、必死に何かを隠していることが悲しかった。

廊下をひたすら歩いて外に出てからもひたすら歩いて、漸くたどり着いた海が一望出来る小さな丘に腰を降ろすころにはすっかり頭も冷え、ハルが隠しているその内容と理由が知りたくなった。

3ヶ月離れていた間にアイツに何があったのか?

もしかしたらもう俺の事は何とも思っていないのか。

そう考えると胸が苦しくなる。

今まで仕事一本だった俺が初めて本気になった女がハルだ。

普段は何もしなくても女の方から寄ってくるから、告白の仕方もわからなかった。

何とかデートに誘ってを何度か繰り返してやっと彼女にした相手。

あの時は泣きそうなくらい嬉しかったのを今でも覚えている。

自分から欲しいと思った女はハルだけだった。

これからも俺はアイツだけを思って生きたいと思ってるってのに…

ハルはもう、俺に向いてくれねぇのか?

水平線の向こうに沈みかけている夕日をただぼーっと見つめながらそう思うしか無かった。





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