SHORT

□だって可愛いんだもん!
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春島が近付いた事により、気候が安定してきた今日この頃、ここ、赤髪海賊船内では犬も食わない夫婦喧嘩が行われていた。






「っ!何なのよこの口紅の痕は!」

「…い、いや〜実は昨日、酒場に行った時に…」

赤髪海賊団船長であるシャンクスの妻であるハルはシャンクスのシャツを目の前で広げて、その首もとに付いている口紅について夫のシャンクスを問いただしていた。

あまりのハルの剣幕にシャンクスはタジタジで、言い訳も口ごもってしまう。

「どんだけ密着したらここに口紅が付くわけ!?」

「そ、それは…」

「大体、何で、口紅が付くような酒場に行ったの?」

「たまたま行った店がそーゆー店だったんだよ…」

「それで女の人侍らせて酒に溺れて朝帰りってわけ!?」

「うっ…」

「はぁ…もういいよ。シャンクスに言ってもしょうがないもんね。もういい」

「!えっ?っ…ハル!」

ハルは毎回酒場に行く度に口紅を付けて朝帰りをしてくるシャンクスに疲れていたのだ。

何度言っても効かない。シャンクスが朝帰りする度にハルはとても悲しんでいたのだ。

(結婚する前はこんな事無かったのにな…もう私なんか興味無くなったのかな?はぁ…悲しいよ…シャンクス…)

ハルは夫婦の部屋である船長室には戻らず、食料倉庫へと入り、隅っこに踞って1人で涙を流した。

暫く泣いていると、倉庫のドアが開き、料理長の##NAME2##が入って来た。

ハルは慌てて涙を拭い、##NAME2##に笑顔を向ける。

「ハル。泣きたい時は泣いていいんだぜ?」

##NAME2##はそう言って優しく笑い、素早く材料を取り出して部屋から出ていった。

ハルは##NAME2##に言われた事を頭の中でリピートしながらも勝手に流れてくる涙を拭い続けた。

(はぁ…早く泣き止まなきゃ目が腫れちゃう)

天井を見上げて見るが、涙は次々とこぼれ落ちてくる。

(どうして涙が止まらないの?)

止めたくても心は素直で、自分の心の痛みの強さを知る。

(シャンクス…こんなにも好きなのに…もう私は要らないの?用済み、なの?…考えれば考える程辛くなってくるよぉ…)

更に溢れてくる涙を無視してハルは顔わ膝に埋めて泣いた。












「お頭、今日も酒場に行くのか?」

「ああ」

「いい加減にしねぇと痛い目みるぞ?」

「フッ、余計なお世話だよ」

シャンクスはベンの忠告に笑って手を振り、数人のクルーを引き連れて船を降りて街に向かって歩いて行った。

そんなシャンクスの背中を呆れ顔で見送るベンは今頃どこかで泣いているであろうハルを按じていた。

(ハルが好きすぎてイジメるのは大概にしねぇと本当に痛い目みるぞ?お頭…)

ベンは口から煙りを吐き出し、タバコを消してから船内へと向かった。












ハルはあれから暫く泣き、やがて泣き疲れてそのまま倉庫で寝てしまっていた。

「ん…」

目を覚ますと辺りは真っ暗で、小さな窓から入る月明かりによって何とか物が認識出来る程度だった。

「あ…寝ちゃってたんだ私…」

そろそろ夕食の時間だと気付き、ハルは取り敢えず、部屋に戻って風呂に入ってから、食堂に向かう事にした。

食堂に入るとクルーも少なく、シャンクスの姿が無い。

(あ…また、か…)

昨日と同じ、今までと同じ、何度も見てきたこの光景に、ハルは簡単に予測がつき、再び胸が痛む。

しかしそれを悟られないように、敢えて何もない振りをし、コックに夕食を注文して席についた。

たくさんの席があるなか、ハルは窓際の列に座り、窓から夜空を見つめて溜め息をついていた。

「そんなに溜め息つくと幸せが無くなるぜ?」

長い間そうしていたようで、料理長が夕食を運んで来て言った。

「お頭なら今日も酒場に行ったぜ」

後でどうせ知るだろうから今言っとく、と##NAME2##は言ってハルの向かいの席に座って自分も夕食を取り始めた。

「今日、昼間はごめんね」

「ああ、別に構わねぇよ」

「見苦しいとこ見せちゃった」

「…いいさ」

「…ありがとう」

「フッ。いいからさっさと食って元気出せ!」

「ふふっ。そうだね!」

ハルは##NAME2##の言葉にまたもや心が少し軽くなり、料理に手をつけていった。

「美味いか?」

「うん!」

「そうか!そりゃあ良かったぜ」

ニコニコ笑う##NAME2##は本当に嬉しそうで、ハルはいつも当たり前のように作ってくれている##NAME2##に改めて感謝した。

「いつも大変だと思うけど、美味しい料理作ってくれてありがとうね」

「あ?それが俺の仕事だからな。当然だ」

「…私の」

「ん?」

「私の、役割って何、かな?」

「………」

「もう、私はこの船に、必要無いんじゃ…」

(そうか…それでシャンクスは船を降りて朝帰りしてくるのか…私が邪魔だから…)

ハルは自分の考えに再び涙が込み上げてくるのを感じ、唇を噛み締めて俯いて耐えた。

「おい…ハル?」

「………」

「………」

「…っ」

「…はぁ。お前もう今日は部屋帰って寝ろ」

##NAME2##はそう言ってハルの頭をポンポンと軽く叩いてから、食べ終わった食器を持って厨房へ消えて行った。

そんな##NAME2##の後ろ姿を見てハルも食器を流しに置いてから食堂を出た。
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