SHORT
□証
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最近、ハルの様子が変だ。
ほぼ毎日気分が悪いと言って寝ている。
食欲もあんま無いみたいで、食事はほとんど残すし、油っこい物は避け、すっぱい系などあっさり系ばかり食べている。
かなりの甘党なハルが、最近じゃケーキを一切口にしなくなったんだ。
なんでだ?
最初はダイエットか?と思ったが、ハルはもともと太ってなんかいねぇから、ダイエットなんて不要だ。
でもコックが作ったケーキやお菓子も気分が悪いと言って断るのには、俺もクルー達も驚いた。
ただでさえ寝込んでいるのに、この状態じゃ、かなり心配になってくるよな!
だから俺は医務室にハルを連れて行ったんだが、直ぐにナース達に閉め出されてしまった。
なんでだよ!
しかしナース達に逆らうなんて命知らずじゃねぇ俺は、取り敢えず甲板で風に当たる事にしたんだ。
「よぉ。1人で何してるんだよい?」
「マルコか」
「浮かねぇ顔してんな」
「ああ」
「ハルの事か?」
なんで分かるんだ?
「…ああ」
「ハルのやつ、ここんとこ体調不良が続いてるよな」
「ああ。毎日気分わりぃみたいで、食欲もねぇ…」
「そうか…。風邪でも引いてるのかよい?」
「確かに、毎日微熱続きだ。やっぱり風邪なのか?」
「医務室に連れて行ったんだろい?」
「ああ。さっきな」
「ナース達はなんて?」
「何も言わずに閉め出された…」
さっきの光景を思い出しながらマルコに言うと、マルコも理解出来ないと言う顔をしてくる。
「もしかして、言えねぇ病気とか?」
「マジかよい?」
「だって、そうじゃなきゃなんで俺閉め出されるんだよ!」
「知らねぇよい」
「どうしようマルコ…俺、ハル無しじゃ生きて行けねぇよ…」
「………」
「そうだよ。今考えると…寝込んでる時のハルの顔はどこか苦しそうで、何度も吐き気がするって洗面所に籠ってたし…食事も…あのお菓子大好きハルが甘い物一切食べたくねぇって!やっぱり重大な病気かもしんねぇ!」
「…お、落ち着けよい」
「それを俺に知らせねぇように、ナース達は閉め出したんだ!」
「まだ重大な病気と決まった訳じゃねぇだろい?」
マルコは狼狽える俺の腕を掴んで落ち着くように言うが、これが落ち着いてられっかよ!
ハルの一大事なのに…!
「ハル…」
思い出すのはハルの笑った顔ばかり。
ここ最近見てねぇから一層愛しく思う。
ハル…。
俺はお前無しじゃ生きて行けねぇよ…!
何でもするから、何だってやってやるから、ずっと俺の側に居てくれよ!
「…マルコ。俺、万能薬か名医探してくる」
「は?」
「だってよ!このまま何もしないで待ってるだけなんて耐えらんねぇ!俺がアイツの病気治してやる!どんな危険な場所に有ろうが、絶対に万能薬見つけて来てやるんだ…!」
「エース…」
「俺は行くから、留守は任せた」
俺はストライカーの準備をしに船内へ戻ろうとした時、ちょうど扉が開かれた。
「あ、エース。ここに居たのね」
「ハル…」
そこにはナースに軽く支えられながら立っているハルが居て、俺に声をかけて来た。
「お前…なんでここに…」
寝てなくて大丈夫なのか?
いや、大丈夫な訳ねぇよな。
「エースに話があって…」
「俺に…?」
病気の事か。
辛いだろうな…。
でも大丈夫だ。
俺がずっと側に居てやるから。
薬だって医者だって探して来てやる。
だから苦しむ事はねぇ。
「あのね…」
そう言ってナースから離れて、俺に手を伸ばしながら近付いて来るハルを慌てて抱き支える。
「エース、あのね…」
「ん」
「あの…ね、」
言いにくそうにするハルを見ているのが辛くなった。
病気になって一番辛いのはハル自身だ。
俺に言うのが更にお前を苦しめているんだったら、言わなくて良い!
俺は俯いているハルを体に負担をかけないようにそっと抱き締めた。
「大丈夫。言わなくて良いから…」
「え…」
「言わなくても、わかってるから」
「エース…」
「1人で悩ませて悪かったな…辛かっただろ?でももう大丈夫だ。俺が側にいる。1人で抱え込まなくていい」
「………」
「俺が絶対お前を守る!どんなに辛くても一緒に乗り越えてやる!」
「エース…気付いてたの?」
「ああ…」
「そっか…ごめんね、黙ってて」
「良いよ。言いにくい事だってわかってるから」
「ありがとうエース…」
目に涙を浮かべながらも笑うハルは綺麗で、つい見とれてしまった。
ほんと、早く気付いてやれなくてごめんな。
「これから二人で治して行こうな」
「え?」
「ん?」
「何を直すの?あ、そっか。部屋から出ない様に柵とかつけなきゃね!でも、それはまだ気が早いんじゃない?」
「柵?ハル、柵が必要なのか?必要なら俺が今すぐ作ってやるぞ」
「柵は必要じゃない。間違えて廊下に出ちゃって階段から落ちたらどうするの?危ないじゃない」
「そ、そっか。フラフラで歩けないからな」
「フラフラって言うよりヨロヨロだけどね」
「ヨロヨロ!?そんなに酷いのか!」
「酷い?うーんまぁ最初だからしょうがないよね」
「初期段階でヨロヨロになんのか!?」
なら重度になったら寝たきりか!?
こりゃ、早めに治さなきゃいけねぇな!
「でも大きくなったらしっかり歩けるようになるから一時的な物だけどね」
大きく?
そうか、ハルは痼があるのか。
場所までは分からねぇが、歩けなくなる程だから足腰を司るところだろう。
ん?
でも、大きくなったら歩けるって珍しい病気だな。
普通は小せぇ方が良いんじゃねぇのか?
まぁグランドラインだからな。
どんな病気もあり得るな。
「楽しみだね」
「…ああ」
辛いはずなのに、これからの生活をしっかり受け入れてるんだな…。
本人がこんなに前向きなのに、俺が不安がってちゃ駄目だな。
しっかりしろ俺!
「ねぇエース。名前考えなきゃ」
「は?」
「え?」
「名前?」
「うん」
「誰の」
「子供の」
「子供?」
「うん」
「誰の」
「誰のって…エース?」
「ちょっと待てハル、いきなり何の話してんだ?」
もともとハルは話がコロコロ変わるやつだったが、ここまで酷かった事はねぇ。
さすがに今回は俺も話についていけねぇや。
「何の話ってさっきからずっとこの話してるでしょ?」
「は?」
「え?」
「ちょっと待てよ。いつから子供の話してんだ?」
「いつからって…最初からでしょ!」
はぁ?
子供の話なんてしてねぇだろ?
俺はずっとお前の病気の事を…。
「ねぇエース、エースは何の話してたの?」
「そりゃ、ハルの…」
「私の妊娠の話でしょ?」
「そう、妊娠の…って、え?妊娠?」
「エース?」
「ぇえ!?お前!妊娠してんのか!」
「ぇえ!?今更!?」
「ななななんだよ。急に!」
「急にって、さっきエースはわかってるからって…」
ま、まさか俺は…!
妊娠を病気と勘違いしてたのか!?
「あれは嘘だったの?」
ハルがさっきとは違う涙を浮かべて悲しい顔をした。
「ち、違わねぇ!」
「………」
「じ、実は俺、ハルが妊娠してるとは思わなくて…てっきり重大な病気にかかってると思ったんだよ」
「え?」
「ここ最近毎日体調不良だし、食欲もねぇし。それにさっき…医務室追い出されたし…」
今までのが勘違いで良かったと思うと次は羞恥心が出てきた。
「エース…私が病気でもずっと一緒にいてくれるって意味だったの?」
「ああ…」
「っ…嬉しいっ」
「ハル…」
「嬉しいっ!エース大好きよ!」
泣きながら笑って、ハルは俺の胸に顔を埋めた。
スリスリと顔をくっつける姿が可愛いぜ。
俺もハルを抱き締める腕に力を込めて囁いた。
「ハル…俺は何があってもずっと側にいる。だから何も心配しなくて良い。俺の子、産んでくれるか?」
「っ…うんっ!私、エースの子供、欲しい!」
「ハル、ありがとう」
「エース…。大好き。世界で一番大好き!」
「俺もだ。ハル、愛してる…」
チュッ
「んっ…ふぅ」
チュッチュ
「俺がハルも子供も守るから」
「ん…エース…」
キスのせいか顔を赤く染めるハルはすっげぇ可愛い。
そんな顔したら我慢出来なくなるじゃねぇか!
でもこれからは出来ねぇんだよな…。
かなり辛いが、きっとハルの方が大変だと思うから、俺も我慢する事にする。
「あのー。お二人さん。私達の存在丸忘れしないでくださらない?」
「俺もだよい」
「「っ!」」
「ラブラブは部屋でお願いしますね?エース隊長」
「あ、ああ」
「後で妊娠中のハルについて色々とお話がありますので、ラブラブし終わったら二人で医務室まで来てくださいね」
ニッコリ笑うナース達にいたたまれなくなるが、腕の中にいるハルと目が合い、二人して笑い合った。
これから俺達は色々と初めての経験をしていく。
でもどんな時もずっと側で生きて行くんだ。
これだけは変わらねぇ。
俺とハルと子供で一緒に、この船で生きて行くんだ。
早く会いてぇな…俺達の子に。
なぁハル?
うん。そうだね!早く会いたいね。
END