SHORT
□こたつと君の熱に
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「うぅ〜寒い」
「仕方ねぇだろ。次は冬島なんだから」
「わかってるけどぉ言わずにはいられないの」
キッドの言った通り次の島は冬島で、昨日の朝方から冬島の気候海域に入って気温は急激に下がった。
その為、南の海出身の私達は仕事がある者以外は各自部屋にあるこたつに潜り込んでいる始末。
私とキッドも例にもれず朝からずっとこたつに首から下を突っ込んで寝転がっている。
キッドが船長権利でクルーに二人分の朝食を部屋まで運ばせたから、凍えるほど寒い廊下に出ずにすんだ。
こたつに入っていても寒さはなかなか消えてはくれないから、さっきから不定期に私の口から寒い寒いと言う言葉が出てくる。
そう言うたびに、キッドがうるさいってこたつの中で私の足を軽く蹴ってくるからムカつく。
「冬島は雪が綺麗だけど、やっぱり寒いのはやだよ」
「お前毎回それ言ってるよな」
「それ以外言うことないもん」
「大体お前、そんな厚着してんのに寒いのかよ?」
「冷え性だからね。辛いんですよ旦那」
「バッ、誰が旦那だ!誰が!」
「あはは。そんなに慌てなくても良いじゃん」
キッドは頭と同じくらい顔を赤くさせて言葉をつまらせるから可愛くて仕方ない。
普段は強気で乱暴なキッドだけど、二人でこうしてまったりしているときはとても優しいんだ。
「それより冬島ではデートする時間あるの?」
「ああ。キラーが情報収集してくれるらしいから時間ができた」
「やったぁ!じゃあいっぱい観光しようね」
「観光って言ってもどうせ買い物だろ」
本当に女は買い物好きだよなってごちゃごちゃ言うキッドはスルーして、私は昨日読んでいた雑誌を開いてチェックしていた服を確認する。
「こんな感じの服が欲しいの!後はこれとこれと…」
「あーはいはい。ちゃんと全部買ってやるから落ち着け」
「ありがとうキッド!」
ガシガシ頭をかいてめんどくさそうに言うキッドに笑顔でお礼を言えば、少し顔を赤くして横を向くからついつい顔が緩んでしまうのは許して欲しい。
「なんだか明日が楽しみになってきたなぁ」
「現金なやつだな。さっきまで寒いから外出たくないって言ってたのによ」
「乙女心と秋の空って言うでしょ」
「いや、お前の場合ちょっと違うだろ」
キッドと他愛ない話をしながらまったりしていると部屋がノックされ、キッドの返事の後に開いたドアからキラーが昼食を持って入ってきた。
「どうせ昼食もここで食うんだろ?」
「うわぁ!ありがとうキラー」
「わりぃな」
「問題ない」
手際よく昼食を私達の目の前に並べてささっと部屋を出ていくキラーを見送った後、私達はそれぞれ昼食に手をつけていく。
「やっぱりこんな寒い時はおでんだねぇ」
「だな。昔は滅多におでんなんて食わなかったのにグランドラインに入ってからはよく食うよな」
湯気が立ち上る皿にふーふーと息を繰り返し吐きかけながら昔を思い出す。
「家にいた時は冬でも半袖だった気がする」
「俺はタンクトップだった」
「夏はキャミソールだったけど、冬はさすがに寒いからそれは出来なかったよ」
今と違う服装を思い出すとミスマッチ過ぎて笑いが込み上げてくる。
キッドは普段あのいかついコートの下は裸だけど、今は黒い長袖を着ているからよっぽど寒いんだと分かる。
「今はタンクトップしないの?」
「バカかお前。こんな寒い時にんな格好してみろ。凍え死ぬだろうが」
「あはは。冗談だよぉ」
チッと言うキッドの舌打ちを無視して笑い続けていると、キッドが私の皿に卵を乗せてきた。
「……やる」
「いいの?」
「ああ。お前好きだろ?」
「うん。ありがとうキッド!じゃあ代わりにキッドの好きなはんぺんあげるね」
自分の皿にあるはんぺんをキッドの皿に移すと、キッドが少し嬉しそうにサンキューって言ってきたから私も笑みを返した。
「はんぺんが好きってなんか意外だよね」
「あ?どこが」
「なんかキッドなら熱い大根を一気に食べてそうなのに」
「悪かったな。はんぺんなんかで」
「ちょっとぉ、拗ねないでよ」
「拗ねてねぇよ!」
「拗ねてるじゃん!そうやって声が大きくなるところが拗ねてるじゃん!」
「チッ…るせぇよ。さっさと食え」
そう言って早速大根を頬張るキッドが可愛くなって私の大根もキッドの皿に移したら、キッドが代わりにしらたきをくれたから嬉しかった。
「あはは。本当にキッドは私の好きな物よく知ってるよね」
「……当たり前だろうが」
「私はキッドのことどれくらい知ってるかなぁ」
「何だよ、お前は俺について知らねぇこととかあんのか?」
少し不機嫌になって言うキッド。
「あ、いや…別に深い意味はなくて、ただ純粋にキッドについて私はどれくらい知ってるのかなぁと思っただけだよ」
「フンッ。俺がはんぺん好きだということも、昔は冬でもタンクトップだったこともお前以外誰も知らねぇ」
「………」
「俺について一番知ってんのは俺以外はお前ただ一人だ。だからそんな不安そうな顔すんじゃねぇよ」
「え…」
どうやら不安顔をしていたようで、キッドは素早く食べ終えた皿をキラーが持ってきていたカートに戻してから、今度は向かいの席じゃなく私の隣に座ってきた。
「ったく。ほら、側にいてやるからさっさと食え」
口調はぶっきらぼうだけど、早口気味に言うところからキッドが少し照れているのがわかる。
「…本当にキッドは優しいなぁ」
「気付くの遅ぇだろ」
「あはは」
「……お前は昔からずっと………………………………か、かわっ……可愛い………まま、だよな………」
キッドらしくない小さな声でどもりながら言うから、一瞬何を言われたか理解出来なかったけど、キッドの顔が今日1番真っ赤になっていたから次第に理解されていくと同時に私の顔も熱を持っていくのがわかる。
「…そ、それを言うならキッドだって……」
「あ?」
「キッドだって、昔から…ずっとずっと、かっこよかったよ……」
「ッ!バ、バカ!そ、そんな恥ずかしいこと言って俺を心臓麻痺で殺す気か!」
「えー!」
真っ赤な顔のまま怒鳴るキッドだけど、その逞しい両腕は私の背中に回ってきて私はがっしりと厚い胸板に押し付けられた。
密着した耳からキッドの鼓動がリアルに伝わって来て、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「…あはは。キッドの鼓動が速いんだけど」
「う、うるせぇ!ここは黙って抱かれてろ」
「なんかその言い方嫌なんですけど」
「チッ。文句の多い女だな」
そう言ったかと思ったら私の唇に柔らかくて温い物が触れた。
「ん…っ、ぁ…ふ」
キッドの熱い舌が入ってきたら私達はとろけたように甘く深いキスを何度も何度も繰り返す。
「ぅ、んっキッド…」
「ハル…」
「なんだか暑くなってきた」
「ハッ。俺もだぜ」
熱の隠った瞳でニヤリと笑うキッドは男らしくて思わずときめいてしまったけど、それで赤くなった顔を見られたくないからキッドの胸板に再び顔を埋めると、力強く抱き締めてくれたから心が喜びに震える。
体に伝わってくるキッドの体温と鼓動に意識がふわふわしていき、私は薄れていく意識の向こうでこう呟いた。
「ずっと、キッドの側にいたいな………」
「永遠に放してなんかやらねぇよ。お前は俺のもんだハル」
キッドの言葉に微笑んでから意識を手放した。
「ハル…愛してる……世界中の誰よりもな……」
END