You are one of my…

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女の子たちはそんなことしないよ。なんて言葉が返ってくるかと思ったが、意外にもミチルは形容しがたい妙な顔をしてこちらを一瞥しただけだった。
「・・・それより、さ!どうしようか。これじゃ帰れないね。」
「あ、ああ。」
ミチルのわざとらしい話題転換が気になったが、深く追求するもんでもないかと思うことにした。
「まあ、濡れて帰るしかないだろうなー。」
「ってゆうかなんで安形は傘持ってないのさ!降水確率80%だってニュースで言ってたじゃん。」
「あー、そういえば同じ言葉を今朝妹から聞いたような気がするなぁ・・・。」
「ダメ兄貴だな!」
「うるせー!」

しばらく二人でギャーギャー言っていたら、
「榛葉君・・・あの、傘無いんだったら、良かったら、あの、これ・・・」
と声がした。ショートカットの大人しそうな女子が緑の折り畳み傘を差し出していた。
「え?でも君は?」
「私は友達と相合傘して帰るから・・・。だから榛葉君達でこれ使って?」
ミチルは俺の顔をちらりと見て、にっこりとその子に笑いかけた。
「ありがとう、優しいね。お言葉に甘えさせてもらうよ。君、名前は?」
「あ、あのっ・・・岩田かな、です。3組の・・・。」
岩田さんは真っ赤になって俯きながら傘を差し出した。ミチルはそれを受け取ると、身をかがめて岩田さんの顔を覗き込み、
「隣のクラスだね。明日の昼休み、返しに行くから待っててね。」
と言った。
今のセリフでノックアウトされた岩田さんは3回頷いた後、真っ赤な顔で走って逃げてった。
一連のやり取りに半ば呆れて横の男を見る。片手を腰に当てて、へらりとしている。
「とんだプレイボーイだな。あの子今日寝れねーぞ。」
「ふふ、かわいかったねー。顔真っ赤にしちゃってさ。」
「ま、何はともあれ、傘借りれてよかったぜ。ミチルは便利だなー。」
「それ多方面に失礼だなー。」
そんな会話をしながら、校舎を後にする。数センチだが背の高い俺が傘を持つことになった。
俺たちがギャーギャー言ってる間に、少し雨足は弱まってたみたいだが、やはり空は低くて重かった。

通りは静かだ。時々学校帰りの学生とすれ違うくらいで、ほとんど人はいない。薄暗いからか、すでに民家には明かりが付き始めている。買い物帰りのおばさんが微笑ましそうに俺たちを見た。
・・・借りた傘がシンプルな緑で良かった。ピンクの花柄とかだったら絵的に非常に寒いものになっていた。

さっきまでは腹が減ったとか担任のカツラ疑惑がどうとかの下らない話をしていたが、気付けば静かになったミチルを不思議に思って横目で見ると、やけにシリアスな顔になっていた。小さい折り畳み傘だから仕方ないが、左半分が見事に濡れている。ぺったんこになった普段よりも色の濃い髪が見慣れない。
いつも飄々としているミチルが暗い顔になるのは、実は珍しいことではない。何にも考えてなさそうだが、こいつなりに色々想うことがあるのだろう。
まぁ、ミチルが何を考えていようと俺には関係ない。お互い余計な詮索はしないこと、それが暗黙の了解だった。


それから大した会話もせずに5分ほど歩いて俺の家に着いた。詳しくは知らないが、ミチルの家はこの先10分ほど歩いたところにあるらしい。お互い半身がびしょ濡れだ。ミチルのおかげで傘を借りられた訳だし、お礼の意味も込めて家寄ってくかと聞いたがやんわりと断られた。


「じゃあね、安形。風邪ひかないようにね。」
ミチルのこういう一言はさすがだと思う。人に気を遣うことに慣れている。俺にはできない芸当だ。
「おう。あー、お前もな。」
それに小さく微笑んで、ミチルは歩き出した。

灰色の雨の中、なんとなく、本当になんとなく、緑色の小さな傘が見えなくなるまで見送った。

おかげで全身しっとりしてしまった。


□□□

「ただいまー。」
「おかえりなさいお兄ちゃん。わ、びしょびしょだね!傘持ってかなかったの?」
可愛い沙綾が出迎えてくれた。
「おう。」
「あれだけ雨降るよって言ったのにーなぁんにも聞いてないんだからー!」
「かっかっか!」
「・・・で、お兄ちゃん。
 サイン、貰ってきてくれた?」



「・・・あ。」

鞄から取り出した色紙は、雨にぬれてよれよれになっていた。
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