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□君が望むなら
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「やっと見つけた。」

公園のベンチに座っていたら、突然影がふってきた。そして荒い息遣いと聞きなれた声。

「あ、がた?・・・っていうか汗すご。」
「おっまえなぁー・・・電話も出ねーし、メールも、返さねーしで。」
「なんで・・・。」
「裏庭で、見てただろ?」
「言っとくけどワザとじゃないよ。・・・で?別れようって、言いに来たの?わざわざ走って。」
本当は嫌だけどさ、こう言うしかないじゃないか。
オレが見ているのを知っててのあの行為なら、今安形が何を言いに来たかなんて本人に確認するまでもない。出来ることなら続く答えを聞きたくないし、嫌だって泣いてすがりつきたいくらいだけど。
でも終りにするのが安形の望みなら、最後に叶えてあげるのがオレのせめてものプライドだ。

そんなオレの葛藤をよそに、安形は呆れ顔で言ってのけた。

「やっぱお前、勘違いしてんな。」
「・・・勘違いってなんだよ。ってかさ、あの子、待たしてるんだろ?別に後腐れとか、しないし・・・わかれ、ようよ。いいよ、べつに。」

安形との恋は、初めから終わりまで格好悪いことだらけだったな。せめて別れの言葉くらい男らしく決めたかったけど、結局声が詰まってしまった。あーあ、オレってこんな格好悪い人間だったっけ?
なんかもう自分が情けなさ過ぎて泣けてきた。本来温かいはずの涙は流れた途端に空気に触れて冷たくなり、オレの心を冷やしていく。

もうやだ。好きってだけなのに、なんでこんなに辛いんだ。
「ミチル・・・。」
「オレばっか、安形のこと好きで、さ・・・辛いから。もう、終わりに・・・。」
「いや、そりゃ困る。」

「・・・え?」

「だから!別れねぇっつってんの!今の取り消せよ、ミチル。頼むから別れようとか言うなって。俺が困る。」
「なっ・・・なんで、だって、じゃあ、なんであんなこと!あの子の、こと、すっ好きに、なったんじゃ・・・。」
「ちげーよ!頼まれたんだよ。お前が見てた通り、告白は確かにされたけどよ、ちゃんと断ったんだぜ。付き合ってる奴いるからって。そしたら、最後の思い出に抱きしめてくれって頼まれたから。」
「頼まれたら誰にでも、するのかよ。」
「お前が言ったんだろ、女子を悲しませる奴は嫌いだって。」
「あ。」

確かに、それは確かに言った。というかよく言ってる。
え?じゃあ、なに?オレが見ていたからわざとあの子の頼みを聞いたってこと?好きになったって訳じゃなく、オレに、嫌われたら困るから・・・?
本当にオレの勘違いだったってこと?

「だからもう泣くなよミチル。」
「だ、だって!・・・もう、駄目かと、おもっ、て。」

いつの間にかしゃがみこんでいた安形が、子供みたいに泣いてるオレの頭を撫でてくれた。相変わらずの温かい手。
本当に良かった。オレのこと嫌いになったわけじゃないんだ、そう思うと余計に涙が止まらない。

しばらく無言で髪を撫でていた安形が、徐に「なぁ、」と口を開いた。

「そういえば言ったことなかったかもしんねーけど。
ちゃんと好きだよ、お前のこと。すげー好き。」


それは、ずっと欲しかった言葉。
一方通行のようにも感じたオレの想いが、やっと報われた。安形も同じ気持ちでいてくれた。

ほれ、と差し出された手を、しっかりと掴む。
これから先、不安はいつも付きまとうだろうけど、その度に安形がオレを見つけてくれる。この温かい手が、きっと何度だって教えてくれる。

先に立ちあがった安形を引っ張るようにオレも立ち上がった。おほ!とか言いながらよろけた安形を笑いながら、ポケットに手を突っ込む。なんだか今日は情けない姿を見せてばかりだったから、これくらい格好つけさせてよ・・・って、あれ?そういえば・・・。

「あああ!」
「お?どした?」
「ボタン!なくなっちゃった!安形にあげようと思ってたのに、きっと走ったから・・・。」
「かっかっか!別にいいじゃねーか。本体は俺のもんなんだろ?」


もちろん、
君が望むなら!
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