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□君と僕とで物語(安誕)
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ミチルと二人で温かな場所にいる。
二人で金を出し合って買った山の中の小さな一軒家。鳥の声も、葉ずれの音さえ聞こえない。ただ、12月のやわらかな木漏れ日だけがそこにある。
肩を寄せ合って座っていた。ミチルは、夢の中を漂うような、曖昧な瞳で外を見ている。どこかへ行ってしまわないよう、繋いだ手に力を込めた。

「ねえ、安形。」
「オレ、眠くなってきたよ。」

そう言ってミチルが微笑んだ。
ついにこの時がきたのかと、無言でその顔を見つめる。
言いようのない悲しさと愛しさがこみ上げて来て、繋いだ手はそのままに、もう片方の手をミチルに伸ばした。艶の無くなった白い髪に指を通し、そのまま皺だらけの頬に手を添え、触れるだけのキスをする。
愛しい、愛しい俺の想い人。いくつになっても美しいその姿に、何度だって恋をした。

「ずっと、長い間、ありがとう。大好きだよ、安形。」
「ああ、俺もだよ。」

幸せだと言って笑った。目の横に深く刻まれた皺が、ミチルの人生を語っている。
それを刻んだのが自分であることを、切に願う。
最期の時に流れる幸せな、穏やかな空気の中、ミチルは俺の腕の中で目を瞑り、そしてこう言った。


「ああ、そうだ、これが最後になってしまうだろうけど・・・。」

「ねえ、安形。―――。」





ああ、悪いけれど、もう一度言ってくれないか。

良く聞こえなかったんだよ。

俺を置いていってしまうのかい?

なあ、ミチル―――。



* * *

「―――がたっ、安形!!」

目を開けると、心配そうにミチルが覗き込んでいた。茶色い髪に、皺ひとつない綺麗な肌。
「どうしたの、安形。怖い夢でも見た?」
涙、と指摘されて初めて自分が泣いていることに気が付いた。そうか、夢だったのか。

そう言えば、ミチルが俺の誕生日を祝ってくれているんだった。
誕生日は昨日だったが、当日は家族がお祝いしたいだろうから翌日にミチルの家で、という彼らしい気遣いのもとで。

飯を作っているミチルを、ソファーの上で待ちながら寝てしまったようだ。
随分長い間夢を見ていた気がするが、ミチルは黄色いエプロンを着けたままだし、まだ外が明るいことからして30分くらいしか経っていないだろう。一炊の夢というやつか。
まだ夢と現実の区別がうまくつかず、頭がぼーっとする。
そう言えば、何の夢を見ていたんだったか。

「妙な夢だった気がするけど、思い出せねー。」
「そうなんだ?幸せそうな顔して泣くからびっくりして起こしちゃったよ。」

・・・そうだ、幸せだった。
とにかく幸せで、少し悲しかった。

急にミチルに触れたくなって、ソファーに寝転んだままミチルの手を引く。されるがままに黙って膝をついたミチルに、掠めるようにキスをした。

初めてするような、何度もこうしてきたような不思議な感覚に胸の奥が痛くなる。何処にも行かないようにと、掴んだ手にぐっと力を込めた。


ミチルが笑った。目尻に皺を寄せて、それはそれは幸せそうに。





そして、唇が触れそうな距離のまま、囁くようにこう言った。


「ねえ、安形。
  誕生日おめでとう。」






たくさんのありがとうを込めて、ミチルを腕に閉じ込めた。
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