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□春はまだ先
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手紙をもらった。
正確に言うと、昼休み前に少し席を外している間に机の上に置かれていた。
ルーズリーフを畳んだだけの極めてシンプルなそれに、自然とため息が出る。
女の子にしては少し凛々しい字が並んだ白い紙に目を通し、適当さが伝わる折れ線の通りに畳んで、ポケットに突っ込んだ。
□□□
「起きろよ安形。」
「・・・ん?お、ミチルー。」
「ミチルー、じゃないよもう。お前が呼んだんだろ。」
「ん?そうだっけ?」
ボリボリと頭を掻く安形に本日(多分)二度目のため息が出てしまう。
安形のおかげで逃げていった幸せに心の中で別れを告げつつ、ポケットから例の紙きれを出した。
「―――これ、書いたの。安形だろ。」
「お、よく分かったな!」
「そりゃあね、字は男っぽいしルーズリーフだし折り方適当だし。おまけになんだよ『生徒会室に来て下さい』って。オレのことわざわざ生徒会室に呼び出す女の子なんていないから!」
「おっさすがは名探偵榛葉道流!」
「ふっふっふ、じっちゃんはいつも一つ!」
「いや違う。なんか色々違うぞ。」
「・・・まぁそれは良いとしてさ、何のつもりだよ?わざわざこんな変な方法で呼び出して。しかも呼び出した張本人は寝てるし・・・。」
「かっかっか!そうでもしなきゃお前来ねーじゃん、生徒会室に、昼休み。」
「まぁ、うん。昼休みは色々忙しいから。」
確かに安形の言うとおり、普段は女の子やクラスの友達と一緒にいるから、例え安形に誘われても生徒会室で過ごすことはないかもしれない。
たいがい安形には甘い自覚はあるけど、これはオレのなけなしのプライドだ。
昼休みまで安形と一緒にいたら、オレの学校生活が安形一色になってしまう。
時間も、心も。
「で、何の用?外じゃできない話でもあるのかい?」
「いや、特になにも。」
「じゃあ、なにかしたいことでも?」
「お?お前なんかやりてぇの?」
「いやオレが聞いたんだけど・・・。」
わざわざ下手な芝居を打ってまで呼び出したんだから、何か大切な用でもあるのかと少し期待したのに。
オレ達の関係を変えてしまうような、なにかを。
「あのさ、オレは何で呼び出されたわけ?」
「特に理由はない。」
「はぁ?安形さ、何がしたいわけ?オレは何をすればいいの?」
「別になにも。俺はねみーから寝るけどな!かっかっか!」
なんだよそれ。急いでここに向かった10分前の自分を殴りたい。変な勘違いなんかしてさ、バカみたいだな。
「・・・。オレ、帰る。」
「え、おい待てよー。」
「あのなぁ!訳もなく呼び出しといて、俺は寝るからって勝手過ぎるだろ。大体安形寝るんだったらオレいなくてもいいじゃん!!」
いつもは安形にこんなこと言わないのに。今日は何故か無性に腹が立って仕方ない。
安形のことは大抵何でも許してきた。ある程度の勝手なら許してしまうくらいには、好きだったから。
けど、それが裏目に出たようだ。こいつにとってオレは、何を言ってもやっても許される、都合の良い奴なんだと言われているようで、それがすごく悔しい。
頭に血が上っているのが自分でも分かった。情けないな、感情をむき出しにして一人でキレてさ。“面倒臭い奴”って思われたかな。でももういいや、“都合の良い奴”が“面倒臭い奴”に変わっただけだ。なんの違いがあるだろうか。
こんな姿女の子達には見せられないから、屋上にでも行こう。もう昼休みは残り少ないけど、少し頭を冷やそう。
そう決めて、ドアへと向かう。安形の顔は見ない。見ればまた、許してしまいそうだから。
「じゃあね。」
「―――だってよー、」
聞き取れないくらいの小さな声。しっかりと聞き取ってしまった自分が憎い。
「・・・なに。」
「ミチルがいれば、よく寝れるんじゃねーかと思ったんだよ。」
・・・え?