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□春はまだ先
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「え、安形、寝てないの?」

何だそれとか何でオレなんだとか、言わなきゃいけないことはいっぱいあったけど、結局出てきたのはこんな言葉だった。

いまいち意味を掴みかねる安形の言葉に驚いて、一瞬で苛立ちは収まった。
どういう意味だろう?安形のことだし、特に意味はない、ただの気まぐれなんだろうけど。
何故か今は目を合わせてくれないその顔から真意を読み取ろうにも、どうしても自分の都合の良いようにしか解釈出来ない。だって、だってさ!オレがいれば眠れるって、少なくとも悪い意味ではない、よね?

“期待するな、敵はあの安形惣次郎だぞ!今までだって何度もぬか喜びさせられたじゃないか!聞き流せ道流!”と警鐘が鳴っているけど・・・。

「ね、それどういう意味?オレがいれば寝れるって。」

やっぱり真意が知りたいバカなオレでした。

「もとはと言えばお前のせいなんだぜ、ミチル。」
「は?」
「寝る前になんでかお前の顔が浮かんで気になって寝れねーよ。だからいっそ本物が目の前にいれば寝れるかと思ってな!」
「なっ・・・。」
「そういう訳だからよ、ミチル、ここにいろよ。」

ニカッと音がするような笑顔でものすごいことを言ってのけた安形をオレは直視できない。さっきとは違う意味で頭に血が上ってクラクラする。

「わっ分かったよ、仕方ないな・・・今日だけだからな!」
わりーな!って言うが早いかいつもの姿勢で寝始めたのを確認し、その場にしゃがみこんだ。倒れたと言ってもいいかもしれない。

何だよ何だよもう!
オレのこと考えちゃって眠れないなんて、何故だかもっと良く考えてみろよな!安形のくせにこのオレをドキドキさせるなんて、ほんと何様だよって感じなんだけど。

それにしたって、なんであんなかわいくない反応を・・・いや、オレ男だし可愛いも何もないけどさ別に。もっと素直に喜んだり、もっと深く突っ込む勇気があれば、何かが変わっただろうか。
こんなに勇気がないのも慌てちゃうのも、初めてだ。余裕なくって本当に格好悪い。だけどだけど、あぁーもう本当に好き!!
自分の情けなさに対する後悔と、無自覚安形の恐ろしさと、未来への期待感がないまぜになって、笑いたいんだか泣きたいんだか自分でも分かんない。

ただ確実にはっきりしているのは、オレも明日から寝不足の仲間入りだってこと。
そしたら今度はオレから言ってみようか、「一緒に寝ようよ」って!


なんてね、きっと鈍感な安形のことだろうから、ただのサボリの共謀だとしか思わないんだろうけどな。

でも、それでも構わない。そんなお前がどうしようもなく、

「すきだよ、安形。」





(おい、直接言えっつーの!)


 
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