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□君が望むなら
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いつも通りの朝。

いつも通りの時間に起きていつも通りの制服を着て、いつも通りの時間にいつも通りの道を歩いて学校へと向かう。違うのは、今日は久しぶりにネクタイを締めているってことくらい。
歩きながら見上げた空だって、晴天と曇天の間、要するに普通の空だ。特別なことなんてないじゃないか、なんにも。

とは言っても、教室に入れば思い出話に花を咲かせつつ早くも写真撮影を始める人がいて、実感する。
ああ、卒業式なんだなぁって。

友達との別れは寂しいけど、何よりもオレにとって大きいのは、安形との関係だ。昨日までは学校に行けばいつでも会えたけど、明日からはそうもいかない。一応付き合ってるとは言ったって、物理的な距離はやはり大きい。
安形は・・・なにも考えてないんだろうな多分。
安形の「好き」よりもオレの「好き」の方が大きくて、余裕がないのはいつもオレの方だ。今までの女の子との恋愛では有り得なかったことだけど、こんな風に一人に必死になるのも悪くないかな、なんて思ってしまうのはいわゆる惚れた方が負けってことなのか。


□□□

「ねぇ、安形見なかった?」

予行練習通りに滞りなく済んだ卒業式の後、各々が自由に写真を撮ったり担任と話したりしている校庭でオレは安形を探していた。
「会長ならねー、裏庭の方に歩いてくの見たよー。」
「そっか、ありがとう。」
「ねね、それより榛葉くんボタ・・・ンは売り切れだよねー、残念!」
「あはは、ごめんね。」

早い者勝ちだから仕方ない!と笑った女の子に礼を言って裏庭へと向かった。

あの子の言った通り、ブレザーだけでなくワイシャツも、今はただの布だ。セーターを着てきたおかげで上半身をさらけ出す事態は免れたけど。
そういえば、ズボンに一つだけ着いている腰のボタンを要求された時は流石に笑っちゃったっけ。欲しいものなら何だってあげたいのは山々なんだけど、流石に最後に変態露出狂の烙印を押される形で高校生活を締めくくるのは勘弁したいなぁ。
3月と言えども肌寒くなってきたから、早く安形を見つけて一緒に帰ろう。
渡したい物も、あるし。

あげる、なんて言ったらどんな顔をするかな?受け取ってくれるだろうか。喜んで、くれるだろうか。

ポケットに入れた小さなそれに触れて、安形のいる裏庭に急いだ。


□□□

裏庭に、確かに安形はいた。
ただし俺の知らない子と一緒に。

あーあ、何で気付かなかったんだろう。卒業式に裏庭と言えばやることは決まってるじゃないか。
大きな木の下で男女が向かい合っているなんて、告白以外の可能性を考える方が難しいだろっていうシチュエーション。見つけた瞬間に停止した自分の足を誉めてあげたい。

木の陰からこっそり二人の様子を確認。安形はオレに背を向ける形で立っているから気付いてないだろうな。安形の向かい側にいる女の子とは距離があるから、大丈夫。第一緊張していてそれどころじゃないはずたし。
正直驚いたけど、ここは見なかったことにして戻ろう。せっかくあの女の子が一世一代の勇気を振り絞って告白してるんだ。邪魔をしちゃ可哀想だ。
大丈夫、オレは安形を信じてる。だってオレ達、付き合ってるんだし。
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