short

□君が望むなら
2ページ/3ページ

だけど世の中は、見たくないものほど見てしまうようにできているらしい。
我ながら健気な判断をしたオレの目は、安形が身を屈めるのをしっかりと映してしまった。そうして女の子を包み込んだ安形の背中に、白くて華奢な手が酷くゆっくりと回る。
それは、人気のない裏庭で行われた、優しく密やかな抱擁。

何がなにやらよく分かんなくて、心臓が苦しいくらいに早鐘を打っているのをただ他人事のように茫然と感じていた。
しばらく足が凍りついたみたいに動かなかったけど、風に揺られた椿の葉っぱが頬をかすって、チリリとしたその痛みにふと我に返る。

オレ、何してんだろう。

こんなとこで、こそこそと覗き見なんかして。
冷静に自分の立ち位置を把握した途端、急に悲しくなって、来た道を急いで戻った。震えて縺れる足を叱咤しながらただひたすらに逃げるように走った。

ポケットの中で、小さなボタンがからからと音を立てるのを聴きながら。


□□□

(安形、好きだよ。)
(は?)
(―――なんて、冗談だよ。)
(・・・なんだ、冗談かよ。俺は本気でも良かったんだけど。)
(・・・え?それ、どういう、)
(そのままの意味だよ。)
(・・・え、オレ、勘違いしちゃうよ?自分の都合の良いように。)
(すればいいだろ。ってかそれ勘違いじゃねーしな。・・・って、おほっ!お前、なんで泣いてんだ!?)
(だって、だってさ・・・。)
(あーはいはい。)

それから笑って、オレの髪を撫でてくれたっけ。

思い出にすがってこの公園に来てしまった自分が恨めしい。あの日安形がこの公園でしてくれたように、自分の髪を撫でてみたけど、やっぱりただ冷たいだけだった。安形の指は、あんなに温かかったのに。

結局のところ、好きなのは、オレだけだったのかな。
そう言えば一年間付き合っていて安形から好きって言われたことないし、キスだってそれ以上だって、いつもオレからだった。それを拒んだことのない安形に、それでも好かれているんだと思い込んでいたけど。もしかしたらただ拒むのが面倒だっただけなのかもしれないな。
やっぱり男のオレなんかより、小さくて柔らかい女の子のほうが良いに決まってるよね。むしろ今までのオレ達が異常だった訳だし。そしてそんな異常な関係に安形を引きずり込んだのは、オレなんだ。

ごめん、安形。ごめんな。
好きになってごめん。
それでもまだ嫌いになれなくて、好きなままで、ごめん。

ベンチの縁に置いた手を握りしめる。ささくれ立った木が手のひらに刺さって痛むけど、この胸の痛みよりはマシだった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ