short

□hand to hand
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ゆらゆら、ゆらゆら

揺らぐのは、世界か、それとも―――。



「だーから、お前と藤崎は似てるって。」
「なっ!?ありえませんっ!何故僕があんな奴と!」
「椿よー、お前同族嫌悪って言葉知ってっか?」
「・・・勿論、その言葉自体は、知っていますが・・・しかし!」
「かーっかっか!冗談だ、そうムキになんなって!」
「〜〜〜っ!からかわないで下さい会長!」

夕焼けこやけの通学路に、そんな二人の応酬が響く。
いつも二人のものだった帰り道が、三人のものになったのはいつからだっけ?「まぁまぁ椿ちゃん。」とか「安形もいい加減にしろよなー。」とか、穏やかに会話に混じっていられたのはいつまでだったっけ?

別にきっかけなんてなかったんだ。ただ少しずつ、オレが勝手に卑屈な感情に捕らわれていっただけのこと。椿ちゃんと安形と一緒にいると、まるで自分が中身のない、それこそ本当に見た目だけの人間のような気がしてしまって、笑えなくなった。
ただそれだけのこと。
淋しいって、一言言えたら良いのかな。でもそこまで素直になれないオレは、二人を羨ましがってただ眺めているだけ。
どんどん、安形が遠くなる。オレ達一応、付き合って、いるんだけどなあ。

いつも二人のものだった帰り道が、三人のものになったのはいつからだったっけ?
三人のものだった帰り道が、二人のものになったのはいつからだっけ?

じんわりと顔が熱くなり、ゆらゆらと、世界が揺れる。まるで水族館の水槽を眺めてるみたい。二人の姿がくらりと水に滲んで、遠くなったり近くなったり。

オレもそこに行きたい、隣にいたいんだけど。
分厚い壁がここにはあるから。
だからあそこには行けない。
一緒には、歩けない。


「では僕はこちらですので・・・あれ?榛葉さん!?どうしたんですか!?」
「どしたミチル?なに泣いてんだ?」

ゆらゆら。
揺らぐ世界で、水槽の中にいるのは一体どちら?

「はは。ごめんねびっくりした?目にゴミが入っちゃってさ。」
「大丈夫ですか?ならあまりこすらない方がいいですよ。」
「気を付けるよ。ありがと椿ちゃん。」

椿ちゃんらしい反応にすこし心が和む。この子は、他人を疑うってことを知らないんだろう。だから危なっかしくて目が離せないんだよね、分かるよ安形の気持ち。

心配そうな視線をこちらに寄越しながらも、挨拶をして椿ちゃんが帰っていった。オレは笑って手を振る。遠くなるにつれて、どんどん景色に滲んでいって、そしてついには消えてしまった。
(ありがとう、ごめんね、椿ちゃん。)

―――君に出会わなければ、なんて考えてしまって。


二人きりになった途端に訪れた静寂と、差し出された安形の手。
オレはそれを無言で掴む。
「目、大丈夫か?」
「・・・うん、ありがと。」
それっきり、言葉を交わすこともなくただゆっくりと歩く。

(安形さ、椿ちゃんといる方が楽しい?)
(オレ実は結構淋しいんだけど。)
(安形。オレのこと、まだちゃんと好きだよね?)

言葉になんかしなくても、この繋いだ手から全て伝わればいいのに。簡単なことなのに、どうして言えないんだろう。自分が情けなくなって、思わず俯くが、くい、と手を引っ張られた。なに、と顔を上げれば真面目な安形の顔。久しぶりだなぁこんなに近くで顔見るの・・・。

「ミチルー。」
「なに。」


「椿は確かに見てて飽きねーけど、好きなのはお前だから。・・・一応言っとくけど。」

形を取り戻しつつあった世界は、ゆらりと揺れてまた水のなか。俯けば、アスファルトに黒い染み。
どうして、伝わるんだろう?どうして、欲しかった言葉をくれるんだろう?






「だから変な心配して一人で泣くなよ。」

「ごめん安形、それは無理。」

そう言いたかったのに、それさえ言葉にならなくて、繋いだ手を強く握った。
どうか伝わりますように、と。

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