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□1000hit 迷子様より
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しまった、僕としたことが。
生徒会室に忘れ物をしてしまった。
帰り道でたまたまバッグを覗いたら、あるはずの物が無く、学校からそう遠くではなかったので、引き返してきたのだ。
生徒会室の前までくると、曇りガラスにぼおっと写る人影が2つ。
ドアは少し開いており、かろうじてのぞける程度だ。
椿は好奇心にかられて、そっと隙間から中を覗いた。
……後悔するとも知らずに。
中には安形と榛葉がいた。何かを話している。椿は耳をすました。
「ま、まって安形、もし誰かいたら、」
「別に問題ねぇだろ。見られても。」
そう言って安形は拒む榛葉にキスをした。
(え……キス、?)
椿は状況を整理しきれなくて、ただ見ていることしかできない。
だんだん行為は深くなっていった。まるで見せつけるかのように。
「は、……んっ、」
「……………。」
ギロ。
安形が椿の方を睨む。そして、口元だけで笑うと、榛葉を床に押し倒した。
椿は忘れ物のことは忘れてただただ走った。逃げるように。
気づけばベッドにダイブしていて、枕に顔を埋めていた。
(どうして、こんなに胸がとても苦しいんだろう。)
気づいていた。何となくだが、椿は気づいていた。
(これは、恋なんだろう。)
前に聞いたのだ。榛葉に。だからこそ確信がもてる。
「しんば、さんっ、…」
枕には涙が染み込んでいった。
―――――
翌日。
生徒会室にはまだ椿と榛葉しかいない。
今しかない。伝えよう。振り向かせてやろう。
呪文のように椿は心でずっとつぶやいた。
意を決して、榛葉に話しかける。
「榛葉さん。」
「どうしたの?椿ちゃん。」
「……好きです。」
「…え、」
「知っています。会長のことがお好きなことは。でも、」
椿は一息ついて、改めて榛葉の目を見て、言う。
「必ず、振り向かせて見せます。」
(いつか榛葉さん、言ってくれましたよね。
好きな子に好きな子がいても、告白しろ、と。
会長には、負けませんから。)