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□未定:君への感情
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未定:僕らの関係の続きです。別に読んでなくても問題はないかと思います。
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気付いてしまったら
二度と元には戻れない。


□□□

「そう言えば知ってた?椿ちゃん今年から医大生だってさー、流石だよね。」

いつしか二人の行きつけとなった居酒屋で、お馴染みのウーロン茶に手を伸ばしつつ、小耳に挟んだ情報を安形に教える。
玉子焼きを頬張る安形から帰って来たのは、相変わらずの適当な反応だった。
「ほー、良いねえ若くて。」
「いや、意味が分かんないしオッサン臭いよ。」
「なんつーかこう、夢に溢れてる感情すんじゃん?・・・・・・あ、やっぱ玉子焼きには大根おろしだな。」
「ああ、そう。」
「ところで、なんでお前知ってんの?連絡取ってんのか?」
「うん、ミモリンが教えてくれた。」
「へー。」

ぽつり、ぽつりと水滴が落ちるように話をする。
無理に話を広げる必要も、頑張って盛り上げる必要もない。ただお互いに話したいことを話したい時に話すだけ。
あの日この居酒屋で会って以来、このゆるーい面会は頻繁に行われてる。今まで1年近く会っていなかったのが信じられないくらい。
大体は今みたいに、安形の前にある料理とお酒が次々となくなって行くのをなんとはなしに眺めながら、周りのざわめきに耳を傾けてぼーっと過ごしてる。全く暇じゃないと言ったら嘘になるけど、決してこの空気に不満はない。多分お互いに。
ってかそうじゃなかったらわざわざ会わないだろ、週一のペースで!

そんなことを考えていたら、くいっと嫌に男らしくビールを飲み干した安形が、「お前今彼女いんの?」と聞いてきた。
まぁ別に恥じるようなことでもないから「いないよ。」と普通に返す。
ビールのお代わりを頼んだ安形は片眉を上げて少し意外そうな顔をした後、にかっと笑った。
「お?ついにミチルも衰退したか!」
「んな訳ないだろばーか。」
そんな訳はない、好意を寄せてくれる子も、想いを告げてくれる子もたくさんいる。むしろ学生の全体数が多い分、その数は高校の時の比じゃない。
だから、そんなたくさんの子の中から一人を選んで、残った子達を悲しませるなんて、そんなこと出来る訳がないじゃん。

「―――大勢の中の一人、なあ。要するに、どれも大して大事じゃないってことだろ?」
「いや、だから、みんな大切なんだよ。だから悲しませるようなことを、したくない訳で・・・。」
「本当に大切な奴がいたら、他の人間が悲しもうと、そいつを幸せにしたいってもんじゃねーか?他の誰を泣かしてでも、そいつには笑っててほしいと、思うもんじゃねーの?」
「あ、うん。そうですね。」

驚いた、驚きすぎて何故か敬語に・・・。まさか朴念仁安形に恋愛論を説かれるなんて、誰が想像できただろう。

「だからよ!かわいそうだから選べねーんじゃなくて、そんだけ魅力のあるやつがいねーから選べねーんだろ。かっかっか!」
「・・・。」

確かに、最近そんな気持ちを持ったことってないかも。
かーかっか、と笑う安形が、今はとっても大人に見える。笑い方はカラスだけどな!
「安形!オレ感動したよ!!」
「・・・お、おほぅ。」
「うーん確かに安形の言う通りかも。あ、でも決して女の子達に魅力がない訳じゃなくて、みんなとっても可愛いんだよ?でもだからそれはオレが・・・いやいや、それじゃあ結局・・・。」
「かっかっか!何言ってるのか分かんねーよ。」
「良いんだよ!今頭の整理中なの!・・・と言うかさ、安形はいるの、彼女?」
「いねーよ。」
「へぇ、意外。安形があんなに熱く語るもんだから、てっきりそういう子がいるのかと、」
思ったんだけどなー。と言おうとして、声が出なかった。
だって、安形が、あまりに痛そうな、思い詰めたような顔をしてこっちを見ていたから。



「幸せにしたい奴は、いる。」

 
 
 
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