You are one of my…

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屋上で見る5月の空は高くて遠い。控えめな太陽と、柔らかい風が眠気を誘う。

「お前・・・。パン思っきり落ちてんぞ・・・。」

安形の呆れた声でふと我に返る。食べかけだったメロンパンは地面に転がっていた。あーあ、もったいない。
「なーにやってんだか。言っとくが俺の弁当はやらんぞ。」
「分かってるよ。そんな優しさ安形に期待してないから。」
「かっかっか!」

結構真剣に、安形には優しさは期待していない。
基本的に自由だし人に気を使わない安形は、興味のないものに関しては徹底的に無関心だし飽き性の面倒臭がりの超淡泊人間だ。

ちなみにオレは人に関しては割と好き嫌いしないし、女の子にはもちろん男子にも人気はある。あ、これは変な意味じゃなくて友達として。だから今まで人付き合いで苦労をしたことはあまりない。そんなオレでも、安形と仲良くなれないかと思ってた。もちろん喧嘩もしないだろうけど。
だって、いつも眠そうに頬杖ついているし何にも興味がなさそうだし、あまり人と関わるのが好きじゃなさそうだし。うわさによると頭はすこぶる良いらしいが、近づきがたいというのが正直な印象だった。
けどあの日、安形に対する認識は少し変わってしまった。
やっぱり眠そうだし尋常じゃなくずぼらだし笑い方は変だし、とにかく変な奴だったが、安形ととは仲良くなれそうだと思った。


安形が、オレに興味がないから、安心した。みんなが思う“榛葉道流”でいなくても良いから。


オレは多分いつも誰かに見られている。そして褒められたり羨ましがられたり妬まれたりしている。
注目される、ということは嬉しいし気持ちの良いものだ。けど時々すごく疲れる。みんながオレを見てるんだもん、気が抜けないでしょ?
その点安形はオレの外見にもオレ自身にもあんまり興味がない。だから、一緒にいると楽だし楽しいんだ。


「うぉーい、お前大丈夫かー?アホな顔になってんぞ、いつにも増して。」
「アホって言うなよ。眠いだけだよ。」
「そうか。」

空の高いところを鳥が飛んでいるのが見えた。五月の晴れ空は確かに気持ち良いけど、寝不足の眼にはちょっと刺激が強すぎるなぁ。眼が痛い。
昨夜はあの名も知らない女の子に申し訳なく、せめて一度でも名前で呼んであげれば良かったなんて今更なことを考えていたら、なかなか寝れなかった。
・・・ん?名前と言えば、オレって安形に名前呼ばれたことない気がする!いっつもオレのことお前って呼んでるぞ!っていうかオレの名前、知ってる?クラスメートだし知らないなんてことは流石に・・・ないとも言い切れないよなあ、安形の場合。

―キーンコーンカーンコーン・・・
「お、チャイム鳴ったな。お前次授業出るだろ・・・って・・・なんつー顔してんだ。」
「安形さぁー、オレの名前知ってる?」
「そりゃ当たり前だろ。なんだいきなり。」
「いや、オレ安形に名前呼ばれたことないから、安形なら知らないってこともあり得るかと思って。」
オレがそういうと、目の前の男は小首をかしげた。うん、可愛くはない。
「ははぁ、よく分からんが、名前を呼んでほしいわけだな。」
「そういうわけじゃないから安心しろ。別に今まで通りでいいし。」
名前呼んでほしいと思っているなんてそんな勘違いは困る。オレは子供かっての。
「かっかっか!なぁーに言ってんだ、遠慮すんなミチル。」
「いや遠慮じゃなくてさぁ、て・・・えっ!?なんで名前!?」
「お前が名前でって言ったんだろ?ってかミチル、教室戻るぞ。」
「名前ってそういう意味じゃ・・・いや、もういいやめんどくさい・・・。」

えらく真面目な顔で「今度は何が不満なんだ?」と聞いてくる安形の顔を見たら、説明するのが馬鹿らしくなってしまった。


世間では、安形は天才だとか言われているらしいが、オレはそんなの信じない。
安形は、アホだった。
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