You are one of my…

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ふと、今朝の沙綾との会話を思い出した。そうだ、めんどくせえが可愛い妹の頼みだ、サインを貰わないとな。
「そうだミチル。悪いんだけど・・・。」
「榛葉くーん!」
ちょうど俺が言いだそうとした時に、甲高い声がした。
教室のドアの所に、髪が長くてスカートの短い女子生徒が立っている。
ミチルは俺をちらっと見た後、女子生徒に向かって「ちょっと待ってね。」とほほ笑むと、また俺に向き直って「なに、安形?」と尋ねてきた。
うーん、さっさと終わらせたいが、あの女子生徒が見ている前でサインを頼んだりしたら、どんな誤解をされるか分からん。それはさすがに御免だ。
「いや、後でいいわ。」
「そう?じゃ、呼ばれてるからちょっと行ってくるよ。」



結局、ミチルは昼休みが終わるまで帰って来なかった。俺の机に残された食べかけの蒸しパンは、すでに乾燥していたので、勿体ねーが捨てることにする。


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「―――んあ?」
椅子をひく音や、話し声で目が覚めた。時計を見ると、4時20分。どうやら今日の授業は終わったらしい。すげーよく寝た。
なんか薄暗いと思って外を見ると、雨が降っていた。バケツをひっくり返した、というのはこういうのを言うんだろうか。黒い雲は低く、今にも落ちてきそうだ。
よし、こんな日はさっさと帰るに限るな。

「ミチルー、帰ろうぜー。」
「ああ、安形起きたの。悪いんだけどさ、今日は先帰ってて?先生に呼ばれてるんだよ。」
「それは困る。お前は俺に濡れて帰れと言うのか。」
「・・・傘持ってきてないの?」
「おう。」
額に手を当ててため息をついたミチルはしばらく考えた後、すぐ終わるだろうから待ってて、と言って教室を出て行った。


「おまたせー。」

10分も経たないうちに戻って来たミチルと連れだって、下足ホールに向かう。その手には傘は握られてなかった。
「ミチル、お前傘は?」
「ああ、置き傘してるんだよ。」
「お前は女子か。」
「うるさいなあ。傘入れてやんないよ。」
「いやーさすがミチル君は用意周到ですなぁー。」
流石にこの雨の中で傘に入れてもらえないのは困る。慌てて言い直すと、声を上げてミチルが笑った。一緒にいるようになってから知ったが、顔に似合わずこいつはでっかい口開けて子供みたいな笑い方をする。

「あるぇー?」
靴を履き替え、自分の傘を探していたミチルが素っ頓狂な声をあげた。
「どした?」
「いや、傘がさ、ないんだよ。ここにさしておいたんだけど・・・。」
「間違って持ってかれたんじゃねえの?」
「かなあ?名前書いといたから大丈夫だと思ったんだけど・・・。」
腕を組んで首をかしげるミチルを見て、ふと思いついた。

「案外、お前のファンが傘持ってってたりして。」
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