You are one of my…

□4
2ページ/3ページ



□□□

「―――チル、ミチル!」
「うー・・・ん・・・。」
「お、気が付いたか。大丈夫か?」
「・・・あがたぁ?あれ、ここは?」
「保健室だ。お前マラソン中に倒れたんだぞ。覚えてっか?」
マラソン中・・・?ああ、そっか、オレ、倒れたのか。うわぁ、かっこわる。最悪だ。
冷房の効いた保健室にはすでに西日が差しこんでいる。グランドからはピーという笛の音、まだ授業中か。
どれくらい寝てたんだろう。
「熱中症だとよー。ジャージなんか着てるからだって、先生呆れてたぞ。」
「・・・。」
別に好きで着ていたわけじゃない。
「ところで、どうだ具合は?」
そう聞かれて身体を起こす。さりげなく安形が背中を支えてくれた。
「うん、なんともないよ。」
「そうか、とりあえず水分とっておけ。」
そう言って渡されたのは、ペットボトルのお茶。
冷え具合からして、わざわざ安形が買ってくれたんだろう。しかもご丁寧にキャップを開けてくれている。

・・・え?だれ、この人。
いやいやいや、さっきから思ってたけど、この優しさと気遣いに溢れた安形は何者だ?
絶対安形じゃないだろ。誰?あなた誰?
「・・・おい、なんだその珍獣を発見したような顔は。」
「い、いやぁ、あの、うん。ありがとう・・・ございます。」
「?」
いけないいけない、なんか混乱してしまった。
お茶を口に含む。冷えたそれは、気持ち良く喉を流れて行った。
「ありがと。ところで、今何時?授業は?」
「ああ、もうすぐ6限終わるな。今日はそのまま帰れって、担任が。」
「安形授業は?」
「ああ、サボった」
「・・・そう。」
□□□

どさくさにまぎれて6限までしっかりサボった俺は、ミチルが目を覚ましたのを確認してから二人分の鞄を取りに教室に向かった。
クラスの奴から(何故か違うクラスや他の学年もいたが)ミチルの容態について質問攻めにあったが、面倒なので、大丈夫だ、とだけ返しておいた。

しかしあれは焦った。柄にもなく。
あんなに焦ったのは、沙綾がジャングルジムから落ちて顔を擦りむいたとき以来じゃなかったか?


突然の女子の悲鳴と、ドサッという音。
倒れたミチル。

背筋が凍った。駆け寄って抱き起こしても意識はないし、息は荒い。おまけに汗かいてんのに顔が真っ青だ。
どうすればいいかなんて全然分からなくて、情けなくも教師の指示を待つしかなかった。
熱中症と判断されたミチルをおぶって保健室まで連れて行ったが、異常な軽さに少し怖くなった。結局そこでも何もできず、薄っぺらい身体が保健の先生に介抱されるのを、ただじっと見ていた。
IQ160のこの頭も、友人が倒れるなんて状況には対応しきれなかったらしい。


それにしても、あいつ―――。



□□□

最近、物がよくなくなる気がする。
文房具はしょっちゅうだし、この前は傘、そして今日の体操服・・・。やっぱりこれはなくしてるんじゃなくて、盗られてる、のだろうか。やれやれ、オレも罪な男だよねー。
ただ、想いを寄せてくれるのは嬉しいけど、物を持ってくのは止めて欲しいかな。さすがに困るしなあ・・・。

そんなことを考えながら、保健室の椅子に座って安形を待つ。
まさかあの面倒くさがりの男が、わざわざ鞄を取りに行ってくれるとは思わなかった。なんだかんだで優しいよなあ、と笑う。
多分、安形は自分より弱いものとか、弱っているものとか放っておけないタイプだ。
妹の溺愛具合からしても、もともとお兄ちゃん気質なんだろうな。
ここまで気にかけれて世話をされるのは、慣れてないからなんかくすぐったい。
オレは元々、甘やかしたい派だし。

―――ガラッ

ドアが開いて、難しい顔をした安形が入ってきた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ