You are one of my…

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『助けて』

メールの受信を告げる携帯電話をスウェットのポケットから取り出し、カチカチと二度ほど操作して出てきたのがこの三文字。

安形はしばらく画面を見ながら考え、そして携帯を閉じる。
(すまんミチル、お前のメールはなかったことにさせてもらう。)
差出人に心の中で謝り、残すところあと一週間となった夏休みを満喫すべく、ソファーに寝転がり目を閉じた。

(くあぁ、ねみー。やっぱ夏休みは寝て過ごすに限るなー・・・)


しかし。

ヴー、ヴー、ヴー、ヴー・・・

鳴り続ける携帯電話が、友人のSOSを見事に頭の片隅に追いやった安形の睡眠を無情にも妨げる。

(う、うるせー・・・)
固いテーブルの上に置いたために先ほどよりもバイブの音が響くそれを放っておくことも出来ず、安形は渋々電話に出ることにした。

「あーもしもし俺は今忙しい。」
「ちょ、安形!それお前メール見たんだろこの薄情者!!」
「ちょ、て・・・お前キャラ変わってんぞ」
「あーもう良いから!とにかく助けて安形!」
「あー・・・だから俺は今非常に忙しくてだな」
「ウソつけ!絶対寝転がってテレビ観てるんだろ。夏休みの正しい過ごし方〜とかなんとか言ってさ。」
「おほっ、当たらずとも遠からず。流石だな。」
「どうも・・・じゃなくてさ!ホント助けて!安形しか頼る人がいないんだよ!」
「えー・・・めん「ありがとう助かるよ家でアイス用意して待ってる!」
「おいっ!」
プー、プー、プー・・・
一方的に切られた携帯電話を見つめたまま安形は考える。
電話口の様子からして、深刻な問題ではなさそうだ。ただ、非常に面倒臭そうな香りがする。榛葉の家に行くか、なかったことにするか・・・安形は選択を迫られた。

(いや、駄目だ。メンドクセー。すまんミチル!)
本日二回目となる謝罪を心の中で口にし、夏休みを享受することにした。

しかし、電話でのやりとりを聞いていた妹からの、じっとりとした物言いた気な視線を背中に感じてしまって落ち着かない。気づかないふりをして目をつむっていたが、さすがに溺愛している妹から「今のミチルさんでしょ?かわいそー。」と言われ冷たい眼を向けられてしまっては、兄としては腰を上げない訳にはいかなかった。

あいつ声でけーよなんでバレてんだ、と一人ごちてソファーから起き上がれば、そのまま携帯だけ持って玄関に向かう。

(仕方ない、アイス食いに行くか。)



□□□
「あー安形ぁー、いらっしゃい。」

最近知った榛葉家の呼び鈴をならすと確認もなしに扉が開いた。安形はその不用心さに眉を顰めながらも玄関へと入る。
黒い無地のTシャツにジーパンという、普段よりラフな格好をした榛葉に別段変わった様子はない。
いよいよ嫌な予感しかせず、安形は些かげんなりしながら1階を通り過ぎて階段を登る。チラリと見えたリビングやキッチンの生活感の無さに違和感を覚えたが、詮索すべきではないとすぐに考え直し、案内されるがままに榛葉の部屋に入る。

飲み物を取ってくると行って部屋を出た榛葉を待ちながら、初めて入る友人の部屋を眺める。と言っても、物がない。狭くはない部屋の中にあるのは、パイプベッドにローテーブル、タンス、小さな本棚とあとは勉強机だけだ。
その勉強机の上に積まれたテキスト(『夏ワーク』と書いてある、見覚えのある物だ)を見て、安形は自分の予感が的中したことを知り、本格的に帰りたくなったのだった。
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