You are one of my…

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「安形、これ。」
「んあ?・・・ああ、これはyにこの式を代入してだな・・・って同じような問題さっきもやっただろ。」
「・・・そうだっけ?」

安形の予想通り、榛葉のSOSとは夏休みの宿題に関してだった。夏休み終了を目前にして、苦手科目の数学だけがどうしても進まないのだと言う。

榛葉はかれこれ1時間ほどローテーブルに向かって夏ワークと格闘している。分からない問題があれば安形に質問をしながら。
その安形はというと、ベッドに寝転がり、ひたすら榛葉の横顔を眺めていた。
寝ようとしたのだが、榛葉に質問されるたびに起きなければならず、ならばと漫画を読んでみたが同じ理由で集中出来なかったのだ。

何が悲しくて夏休みに男の顔を眺めなければならないのかと虚しくもなったが、難しい顔をしたりニヤリと笑ったり、かと思えばまた泣きそうな顔で助けを求めたりと、クルクルと変わる榛葉の表情は安形を飽きさせなかった。
(相変わらず考えてることが顔に出やすい奴だ。)

癖なのか、無意識に左手で髪を弄る榛葉を観察しながら、ふと気になったことを質問してみる。

「なー、それ地毛?」
「そうだよ。前に言わなかったっけ?」
「忘れた。」
「そっか。」
「え?お前日本人だよな?」
「そうだよ。前に言わなかったっけ?」
「いや、まず国籍に関しての会話したことねーから。」
「そっか。」

ふわふわと揺れる茶髪を見ていると、自分とは人種が違うのではないかと、安形は本気で考えてしまうのだ。体格や肌の色だけでなく、瞳の色まで違うから不思議だ。


それにしても、と安形は不満げに口を尖らす。
榛葉は安形の質問に一応は答えながらも、決して問題集から目を離さない。かろうじて返されるその受け答えさえおざなりで、ほとんど聞いていないということがありありと伝わってくる。
家に呼び出しておきながらこの扱いはないんじゃないだろうか、そう思った安形は榛葉の邪魔をすることにした。

「なーなーミチル。」
「んー?」
「ヒマなんだけど。」
「んー、ごめんあとちょっとだから待ってて。」

そう言いながら榛葉はペラリ、とページをめくる。

「なーミチル。」
「・・・んー?」
「腹減った。」
「冷蔵庫にあるものなら何でも食べて良いよ。アイスしかないけど。」
「どんな冷蔵庫だよ。」

安形の突っ込みに、ははは、と笑いながらシャーペンの芯を変える。

なかなかに渋い彼の夏ワークへの情熱が、安形の闘争心に火をつけた。
(こうなったら何が何でも邪魔させてもらうぜ。しかし、生半可な話題じゃ無理だ。もっとこう、奴の興味を引くような・・・あー、そういえば、)

「そういえばよ、ミチル。」
「・・・・・・なに?」
「沙綾から聞いたんだが、うちの学校に不審者いたらしいぜ。」
「へー。」
「しかも俺らの教室の前に立ってたらしいぞ。」
「まじか。うちの学校今時びっくりするくらい開放的というか不用心だしね。オレ、この前おじいさんが犬の散歩してるの見たよ。」

そう言った榛葉が手を止めて安形を見上げる。やっと注意が自分に向けられたことを確認し、安形は(ちょろいぜ、)とほくそ笑んだ。

「不用心と言えばお前もたいがいじゃね?俺がインターホン鳴らしたとき誰か確認しなかったろ。」
「そうだっけ?でもまぁ、安形だろうと思ったし。」
「俺じゃなかったらどーすんだよ。」
「その時はその時でしょ。ってかお前はオレのかーさんか。」

そう言って笑った榛葉は、未だに達成感に浸っていた安形をしり目に、またすぐに夏ワークとお友達になってしまった。
結局安形は榛葉の宿題が終わるまで、困ったときの質問対応係としてベッドの上で待機させられたのだった。

(薄情者はどっちだよ!!)



□□□

「安形ぁー、ありがとな。おかげで助かったよ。」
「・・・そりゃ良かった。」
「ごめんって、拗ねないでよ。」
「なっ、拗ねてねーよ!」
「お礼にご飯作ってあげるからさ。安形の好きなもの。」
「お?お前料理できんの?」
「ある程度はね。何が良い?」
「何でもいい・・・あー、んじゃ久しぶりにアレ食いてーな。アサリのさかむ「オムライスだね分かったオムライスなら得意なんだオムライス!」
「おおい!?」
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