PSB練習生時代

□兄さんと兄貴
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「‥‥チヒロ。おはよう」


 名前を呼ばれて振り返れば、そこには私の第二の憧れである、奇遇にも同じ中国出身で地元も一緒だったハンギョン兄さんがいらっしゃった。

 兄さんはすっごく顔が綺麗でカッコイイ。 こんな人と会話できるっていうのが自分の密かな自慢であるだが、自慢する人もいないのが残念。


「ハンギョン兄さん!」


 私が傍に駆け寄ると兄さんがほんわかと微笑んで私の頭を撫でまわす。


「おはようございます!お久しぶりです!」

「最近全然会わなかったからね。はいこれ、お友達3人と食べて?」


 すっと差し出されたものに私は目を輝かせる。大好物のキムチが袋にぎっしり詰められている光景にテンションのパラメーターが一気に上がった。


「キムチだぁ!(`▽´)」


「いやぁほんと好きだなキムチ」

「今日夢に出てきたキムチ生産工場に行きたいなってちょうど朝思ってたところでしたッ!」

「うん行ってらっしゃい」


「兄さんは「行かない」‥そ、そうですか;」

 兄さんの即答に思わずたじろぐ。そんなばっさり斬られたらなんだか虚しさまで感じられるではないか。

「‥‥喧嘩したんだって?」

と、兄さんは心配そうな顔をして、湿布が貼られた私の頬にそっと触れた。



「あーはい。ちょっと‥‥でも平気です。ご心配おかけして申し訳ありません」

「謝ることないよ。それにしても随分乱暴に叩かれたね」

「アハハ」

 もう笑うしかない。やっぱり男の子相手に本気で喧嘩なんてするもんじゃないですね。


「それについては俺から謝る」

「?」

「あ、カンイン!」



 と、突然私とハンギョン兄さんの間にずいと割ってはいってきた長身のこれまたかっこいいお兄さん。なんだろう‥‥兄さんの回りにはイケメンばっかりだ。

「お前チヒロだな?」


 予想外にも名前を呼ばれて私はうなずく。
 
 なんだか迫力がある人だ。



「は、はい!」

「悪かった。お前殴ったの、俺のダチなんだ。‥‥あいつは昔からずっと練習生としてがんばってんだけどなかなかデビューできないでいるんだ。…だからスカウトとかで来た新人を目の敵にしてるところがあるから…」


 思わぬ謝罪に、私は呆気にとられた。
 この人が謝る必要なんてないのに‥



「悪かったな‥‥ほんとうはいい奴なんだ」

「やめてください。先輩が謝ることはないです」

「でもあいつは謝らないだろうから」


 ああ、この人にとってその人は大切なご友人なんだなと思う。その人の代わりに私に謝罪をいれているならその必要はないと思うけれど…


「私分かります。焦る気持ちも、私が良く思われない理由も。だから、私は平気です。だけど、ドンへ先輩のことを貶されたのは許せなかったです。先輩だって遅くまで自分で、練習頑張ってるのになっ‥‥‥て思って」

頭をフル回転して懸命に韓国語を紡ぐ。


「あんた‥」

「でも殴るべきではなかった。相手も痛いし自分も痛いから、しては駄目。親にそう言われたです。‥――すみません、言葉はまだ不馴れで(汗)」


「いや大体わかった。‥‥‥あいつにも言っておくわ」


 だが頑張った甲斐あって先輩もわかってくれたみたいだ。良かった。

「お前、イイ奴だな」

「え‥‥」

「俺はカンインっていうんだ。よろしくな、チヒロ」



 カンイン先輩は、私の方をポンと叩いて、じゃあなと手を降りながらどこかへ行ってしまった。


「‥‥‥ハンギョン兄さん」

「なに?」

「カンイン先輩、格好いい。兄さんみたい」

「あれ?僕より?」

「兄さんは兄さん。カンイン先輩は兄貴」

「ははっ(笑)でもチヒロも格好いいよ」

「へ?」

「友達のこと思って喧嘩を売るなんて、男でもなかなかできることじゃないからね」

 そう言って兄さんは再び私の頭を撫でまわすと、どこかへと行ってしまう。
 その背中を私は見送って、少し誇らしげな気持ちを胸に覚えながら、若干弾んだ足取りで、朝のボイスレッスンへと向かうのであった。



少しずつ花咲く魅力


「ユンホ先輩、今日キムチの生産工場に行ったんですよ」

「は?」

「夢で」

「あ、夢ね。…(びっくりした)」

「そしたら今日ハンギョン兄さんからこんなにいっぱいキムチを頂きました」

「す、すごい量…」

「これで二日は凌げます。よかった…冷蔵庫のキムチがもう底をつくところだったので。まさに、”天からの恵みでござります”」

「そんな言葉またどこから……テレビしかないか。ってかその量で二日しかもたないのって―――どんだけ食べてるのッ(汗)」

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