PSB練習生時代
□必ず
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「チヒロ…俺デビュー決まったんだ」
「え?」
ユンホ先輩が、複雑そうな顔をして私にそう言った。
今、先輩デビューが決まったって言った。
聞き間違えじゃなきゃそう言った。
それってすごく嬉しいことなのに、先輩はなんでこんな顔してるんだろう。
「先輩、おめでとうございます!」
そう言って私が笑ったら、先輩はもっと複雑そうな顔になってしまった。
「先輩、なんでそんな顔してるんですか?」
不思議に思ってそう問いかけたら、先輩は顔を俯け、少し間をおいてから顔を上げると、私を見降ろして言った。
「…申し訳…ないっていうか…」
「え?」
「チヒロ達だって俺たちと同じくらいに頑張ってきたのに…不公平だって思わないかって――」
そう言って先輩は、私から気まずそうにに視線を逸らす。
私はしばらく先輩が言っていることを理解できなかったが、ややあって理解する。
先輩は私達に負い目を感じているんだ。
一緒に頑張ってきた仲間達より一足早くデビューが決まったことに、先輩は優しいから、心から喜べずにいるみたいだった。
ただ単純に私は先輩のデビューを祝福したけれど、もしも自分が仲のいい友達よりも先にデビューが決まったら気兼ねなくそれを喜べるかと考えたら、そうじゃないと思う。
それでも、私は本当に、先輩の夢が実るのが嬉しいと思う。
「ユンホ先輩、私すっごく嬉しいです!やっとユンホ先輩の夢ッ、叶いますから!」
「チヒロ…」
ユンホ先輩は驚いたように目を見開いたけど、それからすぐに破顔して、私の頭をいつものように撫でてくれた。
そうか、先輩がデビューするということは、こうやって私の頭を撫でてくれることもなくなるんだろうな。
いつもみたいに毎日顔を合わせることも、一緒にご飯を食べに行くことも、ダンスを習うこともなくなるんだ。
そう思うと、先輩に対して、悔しいとか思うよりは、寂しさを感じてしまう。
「俺さ、頑張るよ――皆に恥じないくらいに頑張るから」
「はい!そうしてください…でも、身体にも十分に気をつけて!」
「うん。…チヒロ。
チヒロなら絶対デビューできるから、信じて頑張れよ」
「はい!」
「もう俺は傍で守ってやれないけど、なにかあったらドンヘやヒョクチェに頼って…一人では無理するな」
「大丈夫です。心配しないでください…」
「これで会うのも最期じゃないし、事務所できっと顔も合わせるだろうから、そんときはちゃんと声をかけてよ?」
「もちろんです!先輩、ファイティン!私、ユンホ先輩の一番最初のファンになってもいいですか?」
「…駄目なんて言うわけないじゃん」
そう言ってユンホ先輩は、少しだけ寂しそうに笑って、私の頭をがしがしと乱暴にかいぐった。
「先輩と一緒にデビューする人は誰ですか?」
「ジェジュンとチャンミン、ユチョンと…お前の知ってるジュンス」
「ジュンス先輩もですか!?すごい!!」
ジュンス先輩はヒョクチェ先輩ととても仲がよかったから、話をする機会もよくあった。ジュンス先輩はとても歌が上手な人で、その上ダンスもダイナミックなまさにカリスマ性のある人だったけど、とても人懐っこくて優しい人だったから、話もしやすかった。
私と年は一緒だけど、先輩は私よりもずっと前から練習生として所属している人だったから、私はずっと先輩と呼んでいたけれど……。
――そっか、ジュンス先輩も一緒に夢が叶ったんだ。
「お前は本当に良い奴だよな」
ユンホ先輩は感動している私にそう言って、静かに私の頭から手を離した。
「…じゃあ俺、社長に呼ばれてるから、行ってくる」
そう言って私に背中を向けた先輩が段々遠ざかっていく。
これで最後なわけでもないのに酷く寂しさを感じ、私は思わず先輩を呼び止めた。
「…先輩!!」
振り返ってくれた先輩に、私は大声で自分の思いをぶつける。
「絶対に追いつきますからッ!!油断しないでくださいよーッ!!」
それに先輩はいつもみたいに笑った。
「待ってるからッ!絶対追いつけ!!」
頑張れ
(チヒロなら)
(自分ならきっと)
((できる!))