PSBU

□白手袋を外すとき
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 MAMAへは行かないと断言していたのに、急に社長から呼び出しがかかって、結局席には出席しろとの指示を受けてしまった。
 
 それから授賞式に参加して、さまざまなグループやソロ歌手の人たちが賞を貰うのを称える華やかなステージとたくさん集まったファンの人たちで、本当に豪華な授賞式になっている。


 少女時代や2NE1が受賞していく中、SUPERJUNIORがグループ賞に選ばれた。
 驚きはしなかったけれど、実際にグループ名を呼ばれて、ステージに立つ皆を見ると、なんだかほっとした。

 皆の顔には笑顔が見れて、トゥギオッパが泣かないかと心配して見ていたけれど、涙は見せず、キュヒョンも受賞コメントをしっかりとこなしていた。

 そして最後に、、メンバー達は声をそろえて、私の名前を呼んだ。


「「チヒロ―――ッ!!!」」


 その呼び声に、集まったファンの人たちも歓声を上げてくれるのが、私は信じられない気持で、夢なんじゃないかと思うくらいに、驚いていた。

 トゥギオッパがマイクの前に立って、席に着いている私の方を見ながら、言葉を連ねて行く。




「このグループ賞は、チヒロが抜けて取れたものでは決してありません。

 最初、プロジェクトグループ、SUPERJUNIOR05としてデビューをした時から、メンバーのことを思いやり、支えてくれたチヒロが居たから取れた賞です。

 ――チヒロ、今まで本当にありがとう。始めて会った時は、チヒロはまだ幼くて、ヒョン達が守ってやらなきゃいけない、そういう存在だった。だけど、今ではもう立派な大人になって、俺達が守らなくても、自分でちゃんとやっていける強くて優しい女性になったね。

 それでも、これから先、大きな壁にぶつかる時があると思う。そんな時は、俺たちのことを頼ってほしい。

 チヒロはずっと、これから先、何年経っても、SUPERJUNIORのメンバーであったことに変わりはないから。




 ですからっ、この賞は、このステージに立っている僕らだけではなく、チヒロにも捧げられるに値するものです。

 チヒロ、…本当にありがとう――っ、



 僕たちは、スパージュニ『オエヨ!!!』

 本当にありがとうございました!!!!」



 私に、一番大切なものはなにかと聞かれたら、迷わずSUPERJUNIORのメンバー、仲間たちと答える。
 それは昔からずっと変わらなかった。

 けれど今、皆は今の私の、”全て”だと思う。

 先の見えない自分の将来を案じながらもがむしゃらに、手探りで進み続けた。

 何度も壁にぶつかっては、傍のメンバー達が支え救ってくれた。

 一生をかけても出会えるか分からない。そんな素敵な仲間たちと共に、SUPERJUNIORとして過ごせた日々は、私の生涯の宝物だ。


 会場が湧き上がる中、私は嬉しくて仕方がなくて、幸せでどうしようもなくて、止めどなく流れる涙を、しばらくの間止めることができなかった。



 それから皆はアルバム大賞も受賞して、フィナーレでは全員で歌を歌って盛り上がった。
 
 授賞式が終わると、私は控室に戻る前、人で混雑する中誰かに片手を掴まれた。

 それに驚いていたけれど、不思議と不快感や恐怖はなかった。
 その理由は、私の腕を挽く背中が、トゥギオッパの背中だったから――、


 会場を出て、関係者以外立ち入れない裏口のところで、オッパは足を留めて振り返った。
 
 
「…ちゃんと、聞いてたよね?」

 その問いに、私は深く頷く。

「オッパ…本当にありがとうございました。…涙が止まらないほど、嬉しかった――」

 そう言って微笑んだ私のことを、オッパは不意に強く抱きしめた。

「オ、オッパっ!?」

 それに驚いて身じろぎする私を、オッパはさらに強く抱きしめる。

「―――こんなこと言っても、チヒロを困らせるだけかもしれないけど……言わせて。


 俺、あのときのこと、忘れてるわけでも何でもない。チヒロのこと――ずっと好きなままなんだ」

 その言葉に、私は硬直する。

 オッパが私を見る目が、あの時から変わっていることに、私は気付いていたけれど、いつだって気づかないふりをしていた。



「…俺、きっと来年は入隊するから、チヒロのことを傍で見守ること…できなくなる。
 だけど、俺はその内にチヒロがどこかに行っちゃいそうで、怖いんだっ…!」

「オッパ……」

 そう言ってオッパは泣く。
 私を抱きしめている身体が震えている。
 それにどうしようもなく胸が切なく締め付けられて、私はオッパの背中に腕を回した。


 オッパはこんなにも、私のことを思ってくれていたのに、ずっとは私はオッパの気持ちから目を逸らしたままだった。
 

 気づいているくせに、知らないふりをし続けていた。

 彼は私にとってお兄さんで、私のリーダーなんだ。
 その思いが揺らぐたびに、それは”敬愛”なんだと言い聞かせてここまできたから、結果、今オッパは泣いている。

 私が泣かせた。



「――ッどこにも、行きませんから……泣かないでください」

「俺っ、すっごくみっともないっ」

「そんなことないですっ」

 オッパは私から身体を話してそう苦笑したのに、私は首を振る。
 それにオッパは少しだけ微笑んで、それからスーツの内ポケットから、小さな箱を取り出して、そしてそれを、開いた。



「…チヒロ、これ……」

「――!?っ」


 それは、シンプルなデザインの、小さなパールサファイヤブルーの宝石が輝く指輪だった。

 驚いてオッパの顔を見たら、オッパはその箱から指輪を取って、もう片方の手で私の左手を掴んだ。



「…受け取ってくれる?」



 心臓が止まるかと思った。
 嬉しくて涙が零れそうなのに、オッパが持っている指輪の青い輝きが、私には眩しくて仕方がなくて、…怖い。
 

「…っ私で、いいんですか」

「え?」

「可愛く、ないし…傷だらけだし」

 私はその指輪の輝きとは相反している。
 そんなに綺麗なものを指に嵌められるほどに、私に魅力はない。

 ソラさんみたいに、女優さんなわけでもないし、美人なわけでもない。ましてや顔に傷跡まであるし、足には手術の痕がしっかり残ってる。


「チヒロ…」

 後ずさる私を追うように一歩を踏み出したオッパに、私は顔を俯ける。


「オッパと私は、釣り合わない、からっ」

「無駄な心配しないで」

「!」

 毅然としたその声に、私は思わず顔を上げた。

 真摯な眼差しで私を見つめるオッパは、今まで見たことがないほどに真剣で、心臓がうるさくて息が詰まりそうだ。
 
 オッパは私の左頬にそっと指先で触れて、言った。



「チヒロみたいに可愛くては優しい子、他にいない。この傷も、どんな傷跡も、全部含めてチヒロが好きだよ」

「…オッパっ」

「誰にも渡したくない」


 その言葉に胸を穿たれて、私は必死に堪えていた涙を流してしまう。
 頬に優しく触れているオッパの手を掴んで、瞳を緩く閉じた私は心を決めた…




「誰のものにも、なりません」

「っチヒロ?」

 オッパが驚いた気配がして、私は目蓋を開けて言った。
 

「…その指輪、私にください」

「っ…それって――」

「ジョンスオッパが、好きです」

「っ…絶対、後悔させない」
 
 オッパはそう言って、私の指に指輪をそっと嵌めると、私を優しく抱き寄せた。




 外はもう暗くて寒いのに、身体も心も温かい。



白手袋を、脱ぎ捨てる時

(なんだか夢みたいだ…)
(夢じゃ、ないですよ)
(っ!?チヒロっ、今キっ)
(っ今までの仕返しですからっ//)
((もうめちゃくちゃ可愛いっ!!))

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