PSBU

□此処に居て
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「チヒロ、ちょっといい?」

 部屋の中で最近ハマっている日本語の勉強をしていた時、ドアがノックされて聞こえて来た声は、ドンヘオッパの声だった。
 「どうぞ」と言って、私は机の椅子から立ち上がるのと同じくらいに、オッパがドアを開けて部屋の中に入ってくる。もう夜の12時なのに、わざわざ12階から降りてきてまで、なんの用事があるんだろう。



「ごめんね、あ…勉強中だった?」

「いえ、平気ですよ。…それよりも、なにかありましたか?」

 そう問いかけると、ドンヘオッパは背中に何かを隠すように持っていて、それを前に持ってくると、私に差し出した。
 赤い包装紙に緑色のリボンが巻かれたそれは、

「今日、クリスマスでしょ?プレゼント」

「い、いいんですか?」

「うん。復帰祝いと、カムバック成功したから、ご褒美」



 驚いた。どうやらオッパはクリスマスプレゼントを持ってきてくれたみたいだ。

 毎年オッパは、私とヒョクチェオッパを含めた三人で、おそろいのアクセサリーを買ってくるから、個人的にクリスマスプレゼントを渡されたのは今年が初めてだった。
 今年は忙しくて、メンバーにプレゼントを買う暇がなかったため、クリスマスケーキをリョウクと一緒に作ってメンバーで食べた。 
 ファン達からもたくさんクリスマスプレゼントを貰ったし、メンバーもお祝いをくれた。一人一人、しっかりとお礼をしたいのにできないのが残念だ。

 

 オッパからプレゼントを受け取って、包装紙を開ける。
 と、そこにはノルディック柄のネックウォーマーが入っていた。

「うわッ、可愛い!」

「今度メンバーでスキー場に行こうって話ししてたから、それ着けてよ」

 ネックウォーマーは前から欲しいなって思っていたものだったから、本当に嬉しかったし、メンバーでスキー場に行くのも楽しみだ。
 よくメンバーでスキーに行くことはあったけど、今年はボードの練習もしてみたい。


 

「もちろんです!おっぱ…ありがとうございます。練習を手伝ってもらって、お礼をしなきゃいけないのは私のほうなのに…」

「カムバック成功させたことが、俺らへのお礼になったんだから、いいんだよそんなこと気にしなくても。それに、ケーキも美味しかったし!」

「ぅ…おっぱ良い人ですね」

「今更?」


 オッパは笑いながら私の頭をわしわしと撫でまわす。

「足?今、大丈夫?」

「平気です!スキー楽しみですよぉ〜、私、今年はボードに挑戦しようと思ってるんですけど…」


「教えてあげようか?」

「っはい!」


 そうだ!
 ドンヘオッパはボードが出来る人だった。
 これで私もついにボードデビューが出来る。…だけどそうそう簡単にできるものでもないんだろうな…、覚悟しておかないと。
 それにまずはボードを買わなきゃいけないし…

 いろんなことを考えていたら、不意にドンヘオッパが私を呼んで、
 


「チヒロ」

「はい?」

「い、いや、やっぱ、なんでもない!」

 顔を上げた私だったけれど、オッパはなぜか慌てた様子で口元を押さえて顔を逸らす。
 
 

「え…あの、おっぱ?」

「じゃあね!また明日!!」

「ちょ、おッ」

 それからオッパは慌てた様子で私の部屋から出て行ってしまって…

「…なんか、変」


 一体どうしたんだろう?







 



「…はぁ…」



 俺ってば、一体なにを考えてるんだろう。
 チヒロの部屋のドアを後ろ手に閉めて、背中を預けて溜息を吐く。
 最近の俺って、チヒロとの距離を縮めすぎそうで、怖い。

 周りにメンバーが居れば、無意識に自制出来てるみたいだけど、二人で居ると…やっぱり危ない。
 それを今自覚した。


 クリスマスプレゼントは、毎年チヒロとリョウクが作ってくれたケーキを夜皆で囲んで食べるときに、メンバー同士で交換するのが恒例な行事なんだけど、
 今年、俺は初めてチヒロだけにプレゼントを買ったから、その時には渡せなかった。
 やっぱり駄目だな。
 ただ、チヒロは今年いろいろあって、本当に苦労して頑張ったから、個人的にプレゼントを渡したいと思った。
 だからわざわざメンバーの目に留まらないような時間に11階まで来て、チヒロにプレゼントを渡しにきたんだけど、…なんだろう、この後ろめたい気持ちは。

 メンバーに隠れてまでなんで俺、


「…チヒロと二人っきりに、…なりたいんだよ」


 分かってるじゃん。
 メンバーの誰よりも長く、チヒロと一緒に居たいなんて思ったって仕方がないんだって。
 そんなことしてどうするんだよ。
 そんなことしたって、俺とチヒロが一緒になれるわけじゃないのに。
 でも、好きな気持ちは変えられなくて……
 


 俺がチヒロに抱いてる気持ちは、流れて行く場所がない。
 だからただ只管に、胸の中に溜まって、大きくなっていくだけ。

 それがつらいし、いつか破裂してしまうかもしれないって不安だ。
 いっそのこと気持ちを伝えて砕けたほうが楽なのかもしれないなんて思うけど、そんな勇気は俺にはないし…
 今のチヒロとの距離を壊すのも、嫌だ。


 苦悩しながら、溜息を吐いて玄関へと向かう。 と、

「ヒョン」

「!ッ…び、びっくりした。キュヒョンかぁ、またゲームしてたの?早く寝なよ」

 リビングのソファーにはキュヒョンが座っていて、考え事をしていた俺は驚く。
 明らかに動揺している俺に対して、キュヒョンは目を細めてソファーから立ちあがると、俺の前へとやってきて足を留めた。




「それはこっちの台詞です。…こんな時間に、ヌナの部屋になんの用ですか」

「何の用って…クリスマスプレゼント渡しに行っただけだけど…」

 別に隠すことでもなんでもない。
 なんて自分に言い聞かせながら、なるべく平然とキュヒョンに言ったけれど、鋭いマンネは怪訝な表情を変えない。


「それならなんで、夜ケーキ食べてた時にみんなと一緒に渡さなかったんですか。しかもわざわざこんな遅い時間に」

「っそれは…ってか、どうしたの。そんなこと聞いて、」

 図星を突かれて、曖昧にはぐらかそうとするのを許してはくれないマンネ。


「答えて下さい」

「…っ」


 答えられない俺に、キュヒョンは間を置いてはあと溜息を吐く。
 それに俯けていた顔を上げれば、キュヒョンはなんともいえない表情で俺を見つめながら言った。


「ヒョンがヌナを好きなのは、知ってます」

「!」

「だけど、同じメンバーだってこと、忘れないでください」


 隠し通せることなんて思ってない。

 むしろ俺はそれほど器用な人間じゃないし、きっと俺のことを昔から知ってる人なら、チヒロに好意を持っていることなんて遠の昔にばれていたって不思議じゃない。
 気づいてないのは、鈍感な本人だけかもしれないし。

 それでも、今までみんな、気づかない振りをしてきてくれていたんだ。



「…わざわざそれを言うために、俺のこと待ってたの?」


 ぎゅっと、両拳を握りしめて、キュヒョンを見る。
 

「言われなくても分かってるよ、そんなこと。…でもなんでそれをキュヒョンが言うんだ」

「分かってるくせに」


 キュヒョンはふっと口元を緩めて笑い、俺を見る。
 揺らがない強い眼差しで、



「俺もヌナが好きだからですよ」



 ―――そうだよな。
 何も言えないよ。

 キュヒョンの言う通り、俺は知ってたよ。
キュヒョンも昔から、チヒロの事が好きなんだってことは―――、



 だから俺は、お前とチヒロが一緒にいる姿を見ると、ひどい嫉妬心に駆られてた。



 キュヒョンはそれ以上なにも言わずに、俺に背中を向けて部屋に戻って行く。

 



―――なんで俺、
 チヒロのことなんか好きなったんだろう。




 なんでよりにもよって、チヒロのことをこんなに好きで好きで堪らなくなっちゃったんだろう。
 

「…ッ…馬鹿、野郎」




 今更、後戻りなんてできない。
 もう10年も一緒に過ごしてきたんだよ…



 

 

 『傍に居て、その笑顔を見てるだけで十分だ』





 なんてこと、































 ただの、綺麗事なんだ。



 
どうして君を、好きになってしまったんだろう。

dh(これ…)

kh(明日から…)

dh/kh((めっちゃくちゃ気まずい))

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