PSBU
□星の王子様
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「うわっ、高っ」
「わぁ〜来たの久しぶりだよ!」
只今、私達は黒竜江(ハルビン)の竜塔に来てます。竜塔は東洋で一番高いと言われていて、日本でいえば東京タワーみたいなところだ。
ここではハルビン市内が一望できて、運よく天気も良かったため見晴らしも良い。
ギュヒョナは硝子越しに景色を眺めながら、「この辺一体全部見えるんだ。…日本の東京タワーみたい」と笑った。
そういえば、ギュヒョナは一人で東京へ旅行に行ったことがあるんだっけ?
「そういえば行ったことあるんだもんね、旅行しに…」
「丁度その頃日本で活動してたチャンミンに泊めてもらって、黒豚カツを食べに…」
「あーそうだ!あとドラゴンボールのフィギアも買ってきてたよね?なんで私の分も買ってきてくれなかったの…」
「今度二人で行く?」
「えー行けるかな?」
「んー、どうだろ」
昔だったら、あんまり人目も気にせず旅行できたけど、今じゃもう難しいだろう。自分達でも、それなりに顔は知れていると自覚はあるくらいだから。
それにもう、私はSUPERJUNIORとして日本でSUPER SOWUに出ることもないから、皆でラーメンを食べたりお好み焼きをしたりすることもなくなるんだろうな…って考えると、寂しい。
「また皆でラーメン食べたいなぁ〜お好み焼きもぉ〜」
「チヒロも出ればいいんだよ、SUPER SOW。ソロの時チヒロがギター弾いて、俺が歌うとかすればさ…そしたら終わった後、皆で行けるだろ?」
「あーそれいいね!」
本当に、それが出来る日がくるなら、その時の為にギターの腕を上げておかなきゃいけないなと思う。
他愛のない話しをしながら二人で竜塔の中を歩き回っていると、私は幼い頃、良く行っていたお気に入りの場所が見える地点に着いて足を留めた。
「ギュヒョナ、見て!」
ぐいとギュヒョナの腕を引っ張って、硝子越しに指をさせば、その指先を追ってギュヒョナが少し身を乗り出して目を細める。
「…あそこ、湖?」
「そう!夏に行くと綺麗なんだ。秋だと紅葉してもっと綺麗でね…私がお父さんとお母さんと住んでた家から、すっごく近かったんだぁ」
本当に懐かしい。
ただでさえ地元に帰ってくるのは何年振りなのに――、自分が育った場所を見るなんて、本当に久しぶりだった。
よくあの湖で、気持ちが沈んだ時にギターを弾いてお母さんの歌を歌っていたなぁ…。
「今度は、あそこに連れてってよ」
昔の事を思い出して、思いふけっていた私の手を、そっとギュヒョナが握ってそう言った。
それは遠まわしにも「また来よう」と言ってくれているのが嬉しくて、私はうんと頷きを返す。中国では昨日じゃなくて、本当は今日が旧正月の醍醐味の日だから、ほとんど竜塔に来ている人はいないし、町を歩く人も少ないから、人目もあまり気にならない。
なんだか、今は自分たちがアイドルじゃなくて、普通の一般人みたいだと思う。
しばらくして、私達は最上階にあるお土産屋さんへと向かった。
ただでさえおばあさん達からもらったお土産や旅行の荷物で手はいっぱいだったけれど、SMファミリーには韓国でお土産を買うより中国で買った方が良いだろうし、行先を考えると此処が一番お土産を買うのにいい場所だった。
私は女性組には名物のパンダクッキーを、男性組には中国茶セットを買うことに。
なにせ人数が多いので買い物かごの中一杯にそれを入れていると、トントン、と――ギュヒョナが私の肩を叩くので「なに?」と視線を向けたら、
「チヒロ、杏子酒っておいしい?」
と聞かれて、私は首を捻る。実際私はお酒を飲まないからよく分からないけど、おじいちゃんが好きで良く飲んでいたのは見たことがある。
そういえば、
「ギュヒョナが昨日の夜におじいさんと飲んでたお酒がこれだと思うよ?」
「え、そうなの?」
ギュヒョナは私の言葉に、杏子酒の入った箱を徐に手に取ると、私が持っていたカゴの中に入れた。――ちょっと待った。
「これ、ギュヒョナが払うんでしょ?」
「会計めんどいからチヒロが払って」
「えぇ!?嫌だよそんな…」
お酒なんて安いもんじゃないんだからと私が頬を膨らませたら、ギュヒョンがごそごそとおばあちゃん達からもらった中国饅頭の入った紙袋から何かを取り出して背中に隠した。それを怪訝に思って私が首を傾げていたら、ギュヒョンがにやりと口角をあげて、それを私の眼前に公開した。
「これあげるから」
「っ!?か、かわッ…」
私の目の前に現れた、白黒のふさふさのパンダに、私は思わず身を乗り出す。
う、…駄目だ。私ってこういうもふもふ系に弱いんだッ…どうしようメチャクチャ可愛い。
「どうする?」
ギュヒョナの、私がこういうものにめっぽう弱いことを知っていての手口に、ぐうっと喉が鳴る。
というか、何時の間に買ったんだろう…全然気づかなかった。
「…お酒と値段が全然違うよ――」
結局そんな愚痴を口にしながらも、私はそのお酒をレジへと持っていったのだった。
それから私達は予約していたホテルにチャックインをして、部屋へと向かう。
ホテルの予約は、ギュヒョナに任せていたけれど、なんだかすごく…綺麗なホテルだ。特別高い場所ではないけれど、ホールのシャンデリアがとても綺麗で、床も照明を反射してキラキラ光ってる。
二人でエレベーターに乗って、受け取った鍵に書いてある12階の部屋番号の扉を探す。
そしてドアを開けて中に入ると、一番初めに目に入ったのは、大きな窓だった。私は思わず手に持っていた荷物を床に置いて、窓の前へと駆けると、大きな硝子窓に貼りつく。
「うわ…すっごく綺麗!!」
竜塔ほど高い場所ではないけれど、活気づいた街が一望できて、なによりも雪祭りがおこなわれているの様子がうかがえて本当に綺麗だった。
「ギュヒョナ、この部屋すっごくいいよ!」
「はっはっはっは」
私が後ろを振り返ってギュヒョナを褒めたら、時たまふざけてやることがある悪代官みたいな笑い声を上げながらドヤ顔を向けてきた後、着ていたコートを脱いでハンガーにかけ始めた。
でも、その最中に、私はふとあることに気が付いた。
―――気が付いてしまったのだ。
「あ、れ」
そう、
この部屋には何故か、
「な、なんでっ…あれ?ベット、一つ…一つ!?」
この部屋には、ベットが一つしかないのである!
「なに?ダブルベットだからいいじゃん」
「よ、良くないよっ!!」
慌てる私に対して、ギュヒョナはしれっとした様子で首を傾げる。なんでそんなに冷静にしてるんだ?だって、ベットが一つしかないってことは、一緒の布団をかけて、一緒に寝るって…寝るってことじゃ…
「ダブルべ、ベベットって、ここことは、つまり…つまりっ」
現状にパニックを起こしかけている私を見て、ギュヒョナははあと溜息をはいた後、私のことを至極真面目な顔をして見つめてきた。…なんて顔してるんだッ、
「俺と一緒に寝るの、そんなに嫌?」
「!?」
その言葉に、思わず息を呑む。
ギュヒョナがあまりに真剣な顔をして、私の元へと近づいてくるから、その視線に居抜かれたように、私はその場所から動けなくなる。
「チヒロ、俺たち付き合ってもう三カ月は経つよね?」
「う、ん…」
目の前で足を留めたギュヒョナがそう言うのに、こくりと頷くと、その途端ぐっと私の顔を覗き込んできたので、私は驚いて思わず後退する。と、背中がガラス窓にとんとぶつかって、逃げられなくなった私の顔の横に片手をついたギュヒョナが、吐息が感じられるほど近い場所に居てごくりと固唾を飲む。
「俺たちもう大人なんだし――、俺も好きだとか、愛してるとか、言葉だけじゃ足りないくらいチヒロのことが好きなんだ」
「っ…」
「チヒロに触れて、もっとチヒロを近くに感じたい」
チャンミンの言っていたことは、やっぱり的を得ている。
「…いい?」
ギュヒョナの声は、キャラメルマキアートみたいに甘くて、思わず噎せかえりそう。
耳元でその声が響くから、背中に電流が走ったみたいに、身体が強張る。
「…チヒロ?」
「…っわ、分かった!」
その声を耳元で聞くのに耐えられなくなって、私はギュヒョナの胸を押し返す。
と、ギュヒョナは「ほんと?」と期待に満ち溢れた目で私を見つめてくる。それにもう私は後に引けなくなって、意を決するしかなくなってしまう。
それに、ギュヒョナの気持ちは嬉しいし…その気持ちに私も答えたいと思うから――、…思うけど、
「でもっ、わ、私、その…なんにも分かんないからっ…っきっと…いや絶対!迷惑かけると思うっ、」
「んなこと分かってるよ、言わなくたって。…どれだけ一緒に居たと思ってるんだよ」
ギュヒョナの黒いカットソーの裾を掴んで不安を溢す私を、ギュヒョナは笑い飛ばして、それから身体をぎゅっと胸に抱き寄せた。
「…優しくするから」
その言葉は優しくて、私の背中を撫でてくれる手も優しいから、私はギュヒョナの胸に身体を寄せてこくりと頷いたけど、
「最初だけ」
「さ、最初だけ!?」
安心したのも束の間、驚いて顔をばっと上げたら、それを待っていたかのようにギュヒョナが私の唇に一瞬触れるだけのキスをして、してやったりの笑みを浮かべながら言った。
「でもその前に、氷祭り見に行くんだろ」
「そ、そうだね…」
「待ちきれないなら、先にしたって構わないけど…?」
「ばっ!馬鹿っ!!な、何言って!!//」
その言葉に盛大に慌てた私を、ギュヒョナは冗談だと私の額を小突いて、今度はまるで少年みたいな顔をして笑った。
(ギュヒョナは…いろんな顔で笑うんだなぁ)
星の王子様
kh(それにしてもすっごい荷物…)
(これ、とりあえず明日一番で宿所に配達頼もうか?)
kh(…だね)