PSBU

□記憶の場所
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「うわっ…寒っ」


 もうすっかり夜遅くなってしまった。
 ドンヘオッパの病状が気になって様子を見に行って、11階へと戻ってくるだけの短い道のりなのに、空気が冷たくて身体が冷えている。

 上着を着ないで行ったのは間違いだったなと今さらながらに後悔しながら、宿所のドアを開けて、中へ入ると暖房が利いていて暖かい。

 でも、もう夜遅いというのにリビングの電気が点いていることに気がついた私は、不思議に思いながら様子を見に行くと、リビングのソファーに横たわって眠っているキュヒョナの姿があって少し驚く。



 珍しい。

 
 キュヒョナはほとんど自室でゲームをしているため、リビングに出てくること自体が珍しいというのに、ソファーで居眠りをしているなんて尚更珍しいことだった。





「キュヒョン寝てるの?こんなとこで寝てたら風邪引くよ?」



 そう言って、眠っているキュヒョンに声をかけて、僅かに身体を揺するけど、反応が返ってこない。



「……まったく」


 人が夜遅くまでアニメを見て、居間のソファーで眠っていると、「ちゃんとベットで寝てください!」と怒るくせに、自分はいいのか。

 そう思ってため息を吐きながら、部屋から毛布を持ってこようとその場から立ち上がった時、



「ヌナ」


「うわっ、びっくりした!…起きてたの?」




 不意に腕を掴まれ、私は驚いてキュヒョンを見下ろす。


 そんなキュヒョンは、眠そうに目を数度瞬かせた後、私をじっと見上げて言った。






「…ドンへヒョンの、看病してきたんですか?」


「看病っていうよりは様子を見に行っただけだよ。…なに?なんかあった?」


「……別に、」



 …絶対、おかしい。

 なんだか最近、キュヒョンとドンヘオッパの様子が可笑しいような気がしてならない。

 顔を合わせれば表情を曇らせて、お互いに会話も減っている。

 あんなにドンヘオッパのことが好きなキュヒョンに珍しいこともあるものだなと思っていたけれど…





「キュヒョナ…おっぱと何かあったの?」

 気になってそう問いかけると、キュヒョナはぎゅっと眉間にしわを寄せ、


「…なんで?」


 と、少し不機嫌そうな表情を浮かべたので、これは図星だと思いながらも、深くは問い詰めない方が良さそうだと、聞くのをやめる。




「いや、何となくだよ。っ気のせいなら別に、「なんかあったのは、ヌナのほうじゃないの?」っ!?」


 その言葉に、私は思わず息を飲んで固まる。


 そんな私を見て、勘の良いキュヒョナは、ソファーから立ち上がると、




「図星って顔してます」


 そう言って、私の腕を掴んでいる手に、力を込めた。



「何言われたんですか、」

「っ、キュヒョ、ナ」






 なんでもお見通し、俺には嘘は吐けない。

 そう口にはしないけど、目が言っている。




 でも私はそれを、口にはできなくて俯くことしかできない。

 そんな私に、キュヒョナは「言えないようなことを言われたんだ」と、いつもより声を低くして苛立ったように呟く。



「駄目だよ」







 かすれた声。

 その声と共に、キュヒョナは縋りつくかのように、私の両腕の長袖の裾を掴んで、肩の上に額を乗せて言った。











「ヌナは…………どこにも行けないんだから」


「キュ…ヒョン?」






 それは酷く痛々しい声だった。


 今まで聞いたことがないくらい、今にでも泣き出しそうな、そんな声に動揺する。


 自然と引き寄せられるかのように、私はキュヒョナの頭に手を乗せる。と、キュヒョンの身体が僅かに震えて、それから、私の服を掴んでいた腕が、私の背中に回る。

 抱きしめられるとは違う…どちらかと言えば、縋りつかれている感じがする。


「駄目だよっ…ヌナ――っ」




 その言葉の意味を、私はその時、理解できなかった。



 キュヒョンが私に何を、言いいたかったのかということも…――









 暗闇で嘆く梟











『ヌナは、此処に居る限り誰も愛しちゃいけない――



 そうじゃなきゃ、





 ヌナは此処に、居られなくなるんだから…』







 



 
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