PSBU
□それは知らない気持ち
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「今回のMUSICBANK一位はっ!…チヒロさんです!!」
「私のことを待ってくださった多くのファンのみなさん、事務所のみんな、スパージュニアのみんな、ありがとうございます。これからも努力を怠らず、みなさんに多くの安らぎを届けられるように一層努力します」
IUと一位争いとなった私は、僅差で1位となった。候補に挙がっただけでも嬉しかったのに、まさか1位になれるなんて思ってもいなかったから、本当に嬉しかった。
隣に立っていたIUも「オンニ、おめでとう!」と言って私に抱きついてきて、それも嬉しくて私はアンコールの曲が流れ始めるまでずっとIUのことを抱きしめていた。
そして曲が流れると、私は慌ててギターの準備をして、タイミングの合うところから歌い始めると、折角ギターを弾いているのに、オッパオッパで出演していたドンヘオッパとヒョクチェオッパが突然抱きついてきて、ギターが弾けなくなった。
終いには歌いだしで勝手にバラード曲なのに踊り出したり、私のマイクに割り込んで歌い出すものだから、私はギターを弾くことに専念した。
収録が終わった後も、私が袖へと消えるまで、ファンの子たちが「チヒロおっぱー!」「オンニ―!頑張って!!」とか、いろいろな言葉をかけてくれたから、本当に私は幸せな気持ちになった。
今まではメンバーが沢山いた控え室も、戻れば私一人で、寂しさを感じてしまうけれど、これからはずっとそうなんだから、慣れなきゃなと苦笑する。
静かなのでなんとなくTVの電源を入れれば、偶然にもウギョルの特集の番組が流れていて、そこにはトゥギオッパが映っていた。
画面の向こうのオッパは、ソラさんと本当に仲が良さそうで、笑顔でいっぱいだ。
相変わらず愛嬌のある人だなぁ…。
そう思って見ていたけれど、何故だか、オッパがソラさんに向けるその笑顔見るたびに、胸に痛みを感じてしまう自分に気がつく。
胸が、じんじんと針が刺さったかのように痛い。
「っなんだ、ろ」
具合でも…悪いのかな。
この違和感に、私は自分の胸を握り締めた。
胸を握り締めた指先さえ、心臓が脈打つたびに、焼けるように痛むのは…何故だろう――?
*
ウギョルの収録を終えた後、事務所に呼び出されて今後のSJとメンバー個人のスケジュールの確認をそのまま事務所で済ませて俺が宿所の入り口に着いた頃にはもう0時を過ぎていた。
なんだか身体がだるくて、睡魔のせいかと思っていたけれど、どうやらそれだけではないみたい。
頭痛がして踏み出す足の一歩一歩が重く感じる。
普段は筋トレも兼ねて階段を使うけれど、今日はエレベーターに乗ろうとしてボタンを押そうとした時のこと――、
上りの階段で、誰かが座り込んでいるのが見えた。
酔っ払ってるのかな…と、心配になって傍に寄ってみたら、見たことがある黒いキャップの帽子と黒いパーカーのフードをかぶって眠っているチヒロだった。
「なんでこんなところで…、」
浅い寝息を立てているチヒロの肩を掴んで軽く揺すると、チヒロが緩慢に瞼を開いて、うっつらとしながら俺を見上げた。
それからじっと俺の目を見つめて次には弾かれるようにしてその場に立ちあがった。
「オッパ!?っいっつぅ…!」
「!?チヒロっ」
急に立ちあがったりしたものだから足が痛んだのだろう。チヒロが顔を歪めて倒れそうになったのを慌てて支える。
「大丈夫!?」
「っすみません、」
チヒロはそう言って俺から離れると、軽く頭を下げた。
「なんでこんなところで寝てたの…」
俺じゃなかったら変質者かと思われてたよと言ったら、チヒロは苦笑して、トレーナーのポケットか長方形の箱を取り出した。
「これ、」
差し出されたそれを受け取ると、それは市販の風邪薬の明記がされていて、いつも具合が悪い時は俺が服用している薬だった。
――なんで、
驚いてチヒロの顔を見るけれど、チヒロは深く帽子をかぶっているから、口元しか見えなくて、そして顔を俯けているから、どんな顔をしているのかは全く分からない。
「…最近、具合がよくなさそうでしたから」
「…俺、そんなに分かりやすかった?」
ゴールデンディスクの件について話をしてから、一度も話をしていなかったのに、顔を合わせても避けていたのに、…どうして分かったんだろう。
俺の体調なんて見抜ける機会なんて、後はテレビくらいしかない。
だからそう聞いた。
それに、
「…私には、分かります」
そう短く答えたチヒロは、すぐに俺に背中を向けて歩き出した。
そんなチヒロの手を掴んで引きとめる。
「俺のこと心配してずっと此処で待ってたの?」
「!」
その言葉に、チヒロが振り返った。
チヒロは二段ほど階段を上ったところにいるから、俺はチヒロを見上げる形で、チヒロは俺を見下している。この位置からだと、チヒロの驚いている顔がよく見えた。
「こんなに手も冷たくなってる…風邪引くかもしれないのに――、」
チヒロの冷たくなった掌を握ったら、チヒロは弾くようにして俺の手を振り払った。
それに俺は、腕を振り払われた形のまま固まる。
「風邪をひいてるオッパに言われたくないですよ!」
そう言ったチヒロの顔は、なんだか泣きそうで…
なにか悪いことを言ったかと問いかけようとして口を開いた途端、
「オッパはエレベーター使って戻ってください。…お大事に、」
と言って、チヒロは階段を上って行ってしまった。
結局理由も聞けないままで、足の悪いチヒロに気を遣わせて階段を上らせた自分にため息を吐いた。
手の中の薬箱に視線を落とせば、その箱も冷えて冷たいのに、胸は暖かくて…なのに苦しい。
自分の気持ちに気づいてしまってからは、もうどうしようもないくらいに、チヒロのことを求めている自分がいる。
――ただの妹だって、思ってたのに…
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