PSBU
□金平糖
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「すっごい…」
ホテルに着いて、チヒロに触れる許可を得た後、大量の荷物を配達に頼んだ俺たちは、このホテルの近くでやっているという黒竜江の伝統行事でもある『氷雪大世界』の様子を見に行った。
チヒロから何度も、「行ったら本当に感動するから!」と聞かされていたので、綺麗な所なんだろうなとは思っていたけれど、実際に来てみたら、本当に綺麗で驚いた。
辺りにはたくさんの氷の造形があって、いろいろな照明に照らされ幻想的な世界が、そこには広がっていた。
それに思わず感嘆の声を溢してしまったのに、隣に立っていたチヒロが得意な顔で顔を覗き込んでくる。
「…綺麗でしょ?」
「ん、予想を上回った――」
「えへへ、…さっ、行こ!」
チヒロは壮大な光景に目を奪われていた俺の手を掴んで歩き出す。
その手に引かれるままに歩いていたら、チヒロは造形の前ではなくて、ある小さな出店の前で足を留めた。
そこには果物をいろんな色の飴で包んだ『ひょうたん飴』というものが売っていて、チヒロはその中の赤いリンゴを包んだ棒飴を選んでお金を払った。
「ギュヒョナはどれにする?」
「…目移りする」
どれも美味しそうで綺麗だから、選ぶのに苦労していると、チヒロが「緑のメロン飴も美味しいよ」と言うので、それを選ぶ。
チヒロ曰く、ひょうたん飴を食べながら氷の造形を見るのが『通』なのだとか。
棒飴を口に入れてみると、それはひんやりと冷たくて、でもメロンの風味も甘さも感じられて、美味しかった。
二人で飴を舐めながら、いろいろな形を象った造形を眺めながら歩いていると、その造形の中でもひと際大きな『ソフィア教堂』の前へとやってきた。
それに、チヒロは何時の間に用意したのか、カバンからデジタルカメラを取り出す。
「ギュヒョナ、一緒に撮ろうよ!」
そう言われて、流石に人に撮って貰えるほど明け透けな事は出来ないから、チヒロと出来るだけ傍に寄って、教堂をバックにして写真を撮る。
撮った写真を確認すると、上手く撮れたとは言い難いそれに二人で笑い合う。
それからふと、
チヒロはもうすっかり暗くなってきたハルビンの空を見上げて呟く。
「なんだか…良かったね?」
「なにが?」
「もっと人が居て、あんまりゆっくりできないんだろうなって思ってたけど…こうやって人の目も気にしないで、二人で一緒に過ごせて…嬉しい」
そう言うチヒロの横顔は、本当に綺麗で、胸が震えた。
その横顔に釘づけになっていたら、チヒロはちらりと俺の顔を見てはにかむと、くるりと踵を返して、ソフィア教堂の傍へと足を進めようとした。その腕を掴んで、そのまま自分の胸に引き寄せる。
「っ…ギュヒョナ?」
「…このまま」
チヒロの驚いたような声がしたけれど、拒絶はしない。
だから尚更に強く抱きしめる。
「…外でこうやって、思い切り抱きしめるなんてこと…しばらくはできないから」
チヒロを見てると、いつも無性に抱きしめたくて仕方がなくなる。
ほんとに俺は、もうどうしようもなくチヒロに染められているのだと、改めて実感している最中、チヒロが腕の中で、とんでもないことを言った。
「ギュヒョナは…私の心臓見たい」
「…は?」
どくりと大きく一度、心臓が鼓動する。
「私ね、ギュヒョナが辛そうにしてると、私も辛くなって…嬉しそうにしてると、私も嬉しくなるの…だから、ギュヒョナは私の心臓なんだ」
「…チヒロ」
このタイミングでその言葉は、爆弾以上の破壊力。
「ん?」
「あんまり変なこと言わないで。…キャパ越えて爆発しそうだから、俺の心臓が」
キュン死に警報発令
((何回死にかけるんだ…俺))