短編&log

□触れたい
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「キュヒョナ」

「何?」

「テレビを貸してください」

「無理」

「頼むよッ!このDVD、明日までにシカに返さなきゃいけないんだって!」

「今良いとこだから駄目」

「キュヒョナ〜」

 自分の部屋のTVが故障していて、仕方なくゲームをリビングのTVを使ってプレイしていたら、ヌナが僕の座っているソファーの後ろから肩を叩いて懇願してきた。

 そんなにお願いされても、今は丁度良くボス戦の前だし、このタイミングで替われと言われてもどうしようもない。
 
 ヌナは肩を掴んで身体をゆすってきたけれど、ゲームに集中している僕が無反応なのにどうやら諦めたようで、

 

「…はぁ、じゃあ空くまで待つよ」


 と言って、自分の部屋へと戻って行った。

 
 それから僕がゲームに没頭して、ボス戦を終えてデータを保存した頃には、もうリビングの時計は12時を指していた。
 
 明日は朝からテレビ撮影が入っているから、11階組のメンバーはもう皆それぞれの部屋で眠りに着いている。
 
 ヌナもきっともう寝ているだろうと思ったけれど、万一のことも考えて部屋をノックしてみたら、

「終わった!?」

 と、予想を反してヌナがDVDを片手に部屋のドアを開けて出てきた。


「うん、…でも今から見るの?もう12時ですよ?」

「それを言うならキュヒョナが早く譲ってくれれば良かったんじゃないの」

 そう言ってヌナはむっと頬を膨らませて僕を睨みあげてきたけど、全然怖くない。
 むしろ可愛いなんて思っていた僕の横をヌナが通り過ぎて行って、早速リビングのDVDプレーヤーの電源を入れる。よっぽど見たかったんだな…



「明日朝のTV出るの、分かってますか?」

「うんっ」

 念のためにスケジュールの確認すると、ヌナはトレイにDVDを置いて蓋を閉めながら頷く。
 

「台所の電気消しますよ?」

「うん」

 ヌナはすっかりDVDを見る態勢を作リ上げていて、さっきまで僕が座っていたソファーの上に胡坐を掻いて、傍のクッションを腕に抱え込んでいる。
 
 どうやら寝るつもりはないみたいで、僕ははあとため息を吐きながら、台所の電気のスイッチをオフにする。



「…じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

「ちゃんとリビングの電気消して、ソファーで寝ないで部屋のベットに戻ってくださいよ?」

「んー」

 聞いてるんだか聞いてないんだかわからないテキトウな返事を、テレビ画面を見つめたまま返してくるヌナは、絶対明日の朝起きて部屋を出た時、そのままリビングのソファーで寝てるだろう。

 そんなことを思いながらも、ヌナはDVDを食い入るように見ているので、これ以上邪魔にならないように早々に部屋に退散する。

 明日は早いから早く寝ようと思ったけれど、ミノとチャンミンからメールが来てて…今度会う予定とかをやりとりしていたら、なんだか目が冴えてなかなか寝付けなくなってしまった。


「……ヌナ、まだ起きてんのかな」

 メールも一段落終えて、布団に入ったけれど、どうもリビングの様子が気になる。

 部屋に入ってから今で一時間と十五分が経過した。

 僕は布団から出て、部屋のドアノブを下して開けた。


 



「ヌナそろそろ寝た方が「うわわぁぁぁああ!!?」……は?」


 部屋に入ったとたんヌナがものすごい声を上げてソファーから転がり落ちたのに、僕は思わず間抜けな声を溢した。



「ちょっと、何してるんですか」

「びびびびびびびった」

 ぎゅっと身体にクッションを抱き寄せてあわわわと未だ動揺しているヌナは、よっぽど僕の登場に驚いたみたい。
 

「なんでそんなに…」

 驚いたの?

 そう聞こうとしたところで、僕はTVに映っている画面を見て、眉間に皺を寄せた。


「ヌナ、なんでバイオハザードなんて見てるの?」

 
 以外にも臆病なヌナが、なんでこんな夜にわざわざホラー映画なんて見てるんだ?

 疑問に思って腰を抜かして床に座っているヌナを見おろしたら、


「し、シカが面白いから見てって言うから借りたんだ。こういうホラー映画って見たことなかったから、ちょっと興味があったんだけ「うぉぉおおお」!!!なんだっ、次は何が出てきたんだッ!?TT」


 と、最後まで理由を良い切る前にゾンビの雄たけびに飛びあがった。
  
 それが面白くて思わず噴き出す。

「っそんなに怖いなら、見なきゃいいのに」

「怖いけど、此処まで見たら結末が気になるっていうか…」

 借りたのに見ないっていうのも、シカに失礼かと思って…

 と、ヌナは肩を落とす。


「もう1時過ぎですけど…」

「平気だよ、シュキラがあったって思えばいいんだし」


 どうやら最後まで見るつもりでいるらしいヌナに、


「お茶でも淹れますか?」

 と言ったら、
 
 ヌナも遠まわしに一緒に見ようと言っているのを理解してくれたみたいで、

「っうん!」

 嬉しそうに頷いて微笑んだヌナが、最高に可愛いと思う俺は、すっかり彼女に骨抜きにされてる。










「どうしよッ、キュヒョンあの人噛まれちゃったよ!?」

「そうですね」

「ヤバいよね、絶対フラグ立ってるよね!?Tウイルスにやられちゃうよね!?ゾンビになっちゃうよね!?」

「そうですね、」

「…なんでゾンビは人に襲いかかるんだろう?」

「…さあ?」

「じゃあ、なんでゾンビ同士は仲が良いの?」

「仲が良いわけじゃないと思うけど……それくらいは判断できるんじゃない?仲間だ、とか、敵だとかなら――」

「あーそっかぁ」

「(こんなんで納得するのか…;)」

 やたらとこの映画に対していろいろな疑問を僕に投げかけてくるけれど、僕はそんなに映画にくわしいわけでもないし、バイオハザードのゲームをやってたのももう随分前のことだからよく覚えてない。

 今年新作が出るっていう話は聞いたけど…

 
 ヌナはTV画面を見つめたまま、お茶を一口飲んで言う。

 

「でもさ、それにしたって食べたりしないよね普通。人が人を食べたくなんていくら頭がおかしくなってもならないでしょ…」


 そう言うヌナの横顔をじっと見つめる。
 
 ヌナはBONAMANAの撮影が終わってからずっと髪を伸ばしていた。
 次のアルバムでは少し長めに伸ばしてパーマをかけたいって話をしてたから、多分そのためなんだろうけど…

 そのせいか、なんだか最近ヌナは女らしくなったような気がする。

 カメラを向けられた時のヌナは、本当に男の子みたいにカッコイイけど、こうやって宿所でのんびりしている時はどこからどう見たって女の子だ。
 

 細くて白い首筋も、滑らかな髪も、温厚そうな印象を受ける瞳も、柔らかそうな唇も……


 食べて自分のものにしてしまいたいと思ってしまうほど――、




「――そうかな」

「?」

「俺はたまにあるけど、」

「……、( 一一)」

「なんですかその顔」

「いや、…ごめん。ちょっと引い「冗談だよ」


 ヌナの額を軽く小突いて、僕は再びTVへと視線を戻した。
 
――まずい。
 
 これ以上ヌナを間近に感じたら、とんでもないことを口走りそうだ。

 ふつふつと沸き上がってくる劣情を誤魔化すように、お茶を一気に飲み干す。

 それから一度もヌナのことを見ずに映画を見ることに専念していたら、気づいた時には話にのめり込んでいた。やっぱり自分もゲームをしたことがあったから、その分話の中に入り込むのにも苦労しなし…


 でも、
 話が終盤を迎えた辺りで、ヌナが先ほどから一度も言葉を発していないことに気が付いて視線を横に向けたら、案の定、ヌナは浅い寝息を立てて眠っていた。


「寝てるし」

 結局は僕の方が映画を楽しんでしまったようで、苦笑する。
 

「ヌナ、部屋に行って」

 眠るヌナの肩を掴んで揺さぶると、ヌナは小さなうめき声を溢して、それからこてんと僕の肩に寄りかかってきた。


「…」


 ヌナの髪が自分の首筋に触れてくすぐったいのと、温かなヌナの体温を感じて、胸が奥が疼く。

 

「……強ち冗談でも…なかったんだけど」

 そう呟いて、ヌナの柔らかそうな頬にそっと指先で触れてみて、後悔する。
 

 自身の胸に掛けた鎖の鍵が緩むのを感じた。
 胸から滲んで広がっていくこの感情に、今は抗えそうもない。

 


「ごめんねヌナ、」



 そう呟いて、僕はヌナの頬に触れていた指先を滑らせて、顎を伝い首筋を擽る。

「ん…」

 それに唇から甘いため息を溢したヌナに枷が外れた。

 俺も男だから

 そう眠る彼女に呟いて、目の前の白い首筋に噛みついた。

 

白さに溺れる
 
(キュヒョナ)
(…はい?)
(虫さされの軟膏とか持ってない?)
(なんで?)
(ここ、首のところ赤くなってて…)
(――それ虫刺されじゃないから、薬塗っても無駄ですよ)
(そうなの?まあ、化粧すれば消えるから平気だけど…)
(…折角付けたのに――、)
(?なんか言った?)
(いや、何も?)

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