宝物箱

□腕の中
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『土方さん、僕と一緒に死んでくれますか?』

唐突に総司からそんな事を言われたのは、蒼い月が冴える寒い冬の夜だった。

そんな寒い中、総司は俺の部屋の前の縁側に寝転びながら、俺と月とを見上げていた。

『馬鹿ヤロー!何ふざけた事言ってやがるんだっ。俺たちの命は俺たちの勝手にしていい命じゃねぇだろうが!新選組のための命じゃねぇのかっ!』

俺は思わず声を荒げて怒鳴った。

何故、総司がこんな事を言い出すのかも、訳がわからない。

ところが…

『いやだなぁ。』

総司はクスクスと笑って言った。

『そりゃ僕が死ぬ時はもちろん近藤さんの為に、ですよ。でも、逝く時は…土方さんの傍で逝きたいんだ…。ねぇ、土方さん。僕が死ぬ時は傍にいる、って、約束してくれませんか…?』

急に真面目な顔になり、何の迷いも無い真っ直ぐな瞳に射ぬかれて、俺はガラにもなく言葉に詰まる。

そして、それを誤魔化すかのように小さくため息をついた。

『…そういう事なら、いいぜ。近藤さんの為に死ぬ時だったら…仕方ねぇから傍にいてやるよ…。』

かわいい弟分の願いだ。

お前がそう望むなら、叶えてやりてぇ。

例えそれが儚い願いだったとしてもな…。

俺は総司の頭をガシガシと抱き抱え、そう思っていた。

『…歳三さん。』

『ん?』

『…しばらくの間、このままこうしててもらえませんか?』

『なんだ、甘えやがって。ガキみてぇだな。』

そう笑いながらも俺はそのまま、総司の願いを聞き入れていた。

『…今日は‘歳三さん’って呼んでも怒らないんですね。』

そういやそうだ。

いつもは規律を乱しちゃならねぇ、と、いくら総司にでも厳しく‘土方さん’と呼ばせているのに。

『ま…たまにはな…。』

俺は曖昧に返事をしてごまかした。

意味なんかねぇ。
いや、俺にもわからねぇ。

ただ、無性にお前を甘やかしたくなったんだ…。


抱き抱えた腕の中から、総司の、昔のやわらかい笑顔が見えた様な気がした。

こんなに優しい顔で笑うお前を、修羅と呼ばれるまでにしたのは、新選組でも、近藤さんでもねぇ。

…この俺なんだ。


『…死ぬ時じゃなくても、傍にいて下さいよ。歳三さん…。』

ふいに、総司がそんな言葉を口にした。

『総司…?』

見ると総司は、俺の大好きなやわらかい笑顔を浮かべながら、いつの間にか静かに寝息を立てていた。

『ったく、何言ってやがる…。』


闇夜が漆黒の憂いを増し、月は恐ろしいくらいに冴えわたっていた。

手を伸ばせば届きそうなのに、決して掴む事が出来ない…それはまるで想い人の心のようで…。

『総司…お前は俺が死なせやしねぇよ…。』

寒い冬の夜、かわいい弟分が風邪をひかないように、俺は総司を抱く腕に力を込めて蒼い月を見上げた…。

『早く春が来るといいのにな…。総司、今度は一緒に春の月を眺めようぜ…。』

俺は腕の中に一足早い春を感じながら、たまにはこんなのも悪かねぇな、と思っていた…。


‐終‐


※※※

一周年記念に、いつもサイトに訪問してくださっているひろ様から頂きました!!

前から大好きだった『風光る』の土方さんと総ちゃんの兄弟愛。

処女作とは思えない素敵なお話に、猛烈に感動ですっっ!!


こっちの総司は『薄桜鬼』の総司とはちょっと違って天然で鈍感だけど鬼の副長の参謀として不器用に生きる土方さんを傍らで支える凛とした男に描かれてます。
土方さんは、総司を人斬りにしたのは自分だと責めを負って、総司はそんな土方さんを理解していつも微笑んでるんです。

これを頂いて私もまた『風光る』の二次も書きたいなぁと思ってしまいました。

ひろ様、この度は素敵な贈り物、本当にありがとうございました。

これからも未熟者の私ではありますが、公私共に仲良くさせて下さいませー!!

20130110 春月梅

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