×白雪姫
□第8章
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「勝者、シラユキ!」
一瞬の出来事だった。
同時に床を蹴り、白雪が左手に構えていたナイフで攻撃しようと思ったが、キルアに手首を蹴られナイフを床に落としてしまった。
キルアが勝ったと確信し、鳩尾を殴ろうとした瞬間、白雪が右手に持っていた銃がキルアの額に触れる。
本命は右手の銃ということだ。
「やったー!私の……勝、ち…?」
白雪は最も重要なことを忘れていた。
試合で勝ったほうが、勝敗を選べる訳ではなく、勝ったほうが勝ちで、負けた方が負け。
つまり、白雪が試合に勝ったということは、キルアが次の試合でイルミと戦うということだ。
「私…馬鹿だ…」
白雪は勝利したはずなのに気分がダダ下がりで、レオリオ達の元へと戻った。
「シラユキ!お前スゲェな!」
「あんな格闘技術どこで習ったんだ?」
「何処って…自宅?」
「まさか、キルアから一本とるとは思わなかったぜ!」
「でも、あいつ本気じゃなかった」
「え?そうなのか?」
「鳩尾に一発入れて気絶でもさせるつもりだったんだろうけど…私が素直に殴られておけばこんなことには………」
「シ、シラユキ?何をそんなに落ち込んでいるんだ?」
「………何も、起きなかったらいいんだけど…」
白雪はギタラクルを見る。
表情もわかりはしないあの顔が少し笑って見えた。
キルア対ギタラクル。
白雪は息を飲んで二人を見る。
キルアが少し腰を低くして戦闘態勢に入った時、ギタラクルが口を開く。
「キル」
ギタラクルは顔に刺さっている針を一本ずつ抜き始めた。
「気がつかなかったようだね」
針を抜いた顔は次第に変形し、全くの別人になった。
黒く長い髪をセンターで分け、ハッキリとした何も映さないような黒い目。
「あ、兄貴……」
「母さんとミルキを刺したんだって?」
「まぁね…」
「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろな、息子に酷い目に合わされちゃ…。やっぱとんでもねぇガキだぜ」
「感激してた。あの子が立派に成長してくれてて嬉しいってさ。でもまだ外に出すのは心配だからって、それとなく様子を見てくるように母さんに頼まれたんだけど…。奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思っていたなんてね。実は俺も次の仕事の関係上、資格を取りたくってさ。ハンターライセンスがあれば色々と便利だし、だから、本当に偶然なんだよ?隠してたのは悪かったけどキルはどうなの?」
「別に…なりたかった訳じゃないよ。…ただ、何となく受けてみただけさ」
「そうか、安心したよ。それなら心置きなく忠告できる。キル、お前はハンターに向かないよ。お前の天職は殺し屋なんだから。お前は熱を持たない闇人形だ」
「………違う」
「自身は何も欲しがらず、何も望まない」
「…違う」
「お前が唯一、喜びを抱くのは人の死に触れたとき」
「違う!」
「違わない。何故ならお前は俺と親父にそう育てられた。そのことはお前が誰よりも、よく分かってるはずだよね。そんなお前が何を求めてハンターになると?」
「………確かに、ハンターにはなりたいと思ってる訳じゃない。だけど…俺にだって欲しいもの位ある」
「ないね」
「ある!今望んでることだってある!」
「ふーん。では言ってごらん」
「…………」
「どうした?本当は望みなんてないんだろ?」
「ある…」
キルアは白雪の方を一瞬だけ見て、イルミの方に向き直る。
「ゴンと…シラユキと…友達になりたい。もう人殺しなんて、うんざりだ。普通に友達になって普通に遊びたい。普通に……」
「無理だね、お前に友達なんて。出きっこないよ。お前は人というものを殺せるか殺せないかでしか判断出来ない。そう教え込まれたからね。今のお前にはゴンやシラユキがまぶしすぎて、はかりきれないでいるだけだ。友達になりたい訳じゃない」
「………違う」
「二人のそばにいれば、いつかお前は二人を殺したくなるよ。殺せるか殺せないか試したくなる。何故ならお前は根っからの人殺しだから」
「そうかもしれない。でも俺は殺さない、友達になりたいんだ。友達は殺さないよ」
「本当に?」
「あぁ」
「はぁ…」
イルミはため息をつき、また口を開く。
「それはねぇ、必ず世話をするから犬を飼わせてってねだるのと同じなんだよ」