『好き?嫌い?プリン(セ)ス』
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「ここか、合宿所ってのは…。あぁ…無駄に広そうだなぁ」
真っ黒な長袖長ズボンのジャージに身を包み、私は、U-17選抜候補の合宿所に辿り着いた。
大きく開かれた門から、合宿所という域を超えるほど広い敷地を見て、深い溜め息を吐く。
あぁ…これ、絶対迷子になるわ。
宣言しとく。
だって私、自他共に認める迷子体質だもん。
ちょっと規模の大きいスーパーでさえも、迷子になるぐらい重度だからね。
逆に、こんな広い敷地で迷子にならなかったら、天才だと思うわ。
この合宿所へ来るのも苦労したなぁ…。
自力で来ようとしたけど、結局途中で諦めて、タクシーで送ってもらったし。
「んーま、とりあえず歩いてみようかな」
私は、小さく呟き、黒い帽子に髪の毛をまとめ入れて、深く被り直し、合宿所へと足を踏み入れた。
――……そして数分後。
「ま、迷ったぁぁぁぁああああっ!」
案の定、迷ったのである。
ほら、宣言通りでしょ?←
有言実行とは、まさにこのことよ!(違う)
つーか…道に沿って普通に歩いていたはずなのに、なんで迷うんだよぉぉぉおおおおっ!?
おかしいだろ、絶対おかしいってば!
こ、こんなことなら、門の前で誰か来るのを待ってれば良かった…。
ちくしょう…。
と、肩を落とすが、後の祭り。
仕方がないから、ボールを打つ音が聞こえるテニスコートを目指すことにした。
誰かいて、事情を話せば16面あるというメインコートの場所を教えてくれるよね。
私、賢い!さっすが!←
そもそも、迷子にならなきゃいいとか、そういうツッコミは無しだよ。
帰国子女だから日本の地形が分からないだけさ!
ね、だから仕方ないだろう?←
…あぁ、まぁ…外国でも散々迷子になったけどさ…。(遠い目)
って、そんなことはどうでもいい!
テニスコート!テニスコート!
歩みを進めていると、何やら賑やかな声が聞こえてきた。
「人の気配キタァァァァアアアアア!」
急いで声の聞こえるコートへ駆け寄ってみると、今年の関東大会・全国大会優勝校である青春学園のレギュラー陣が揃っていた。
「おおおっ!人いたぁぁぁああああ!」
今日の私は、ラッキーだ。
さっそく優勝校と出くわすことが出来るとはね!
迷子になって良かった。←
え?なんで外国にいたのに青学を知ってるかって?
それはね、黒部コーチって人から、中学生選抜に関する資料(厚さ10p×5冊)が送られてきたからさ。
ふふん…それを隅々まで読んできたから、中学生のデータは全部頭に入ってるぜぃ!
名前・身長体重・プレースタイル等はもちろん、好きな女性のタイプや、デートで行きたい場所まで完璧さ!
「ふははははっ!!」
ハッ!?思わず、高笑いをしてしまった…。
気付かれたら、完全に変な人じゃないか!
イカンイカン…冷静になって、様子を窺ってみよう。
えーっと…今、コートで打ってるのは、桃城くんと河村くんのパワー2人組か。ふむふむ。