お題小説

いなんか、もうしないつもりだったのに
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もし、俺が小野寺出版を辞めていなかったら。

俺が高野さんと再会する事は無かっただろうか。

高野さんにそう聞いたら

「何、お前は俺と再会したくなかったわけ?」

と、不満そうに言われた。

高野さんと再会して間もない頃の俺だったら、何の躊躇いもせずその言葉を肯定出来ただろう。

けど、今の俺がそう聞かれると、気持ちが揺らいでしまう。

・・・俺はやっぱり高野さんの事が好きなんだって、自覚させられたから。

「べ、別に高野さんとまた会いたいなんて、俺は思っていませんでしたよ」

半分は本心、半分は嘘。

精一杯の強がりを見せたところで、高野さんにとってはそんなの無意味なんだけど。

だって、そうだろ。

忘れたくて、忘れたくて、やっと10年もの時をかけてその想いに蓋をしたのに。

それがこうも簡単にこじ開けられるなんて、馬鹿みたいじゃないか。

何のために高野さん・・・嵯峨先輩の事を忘れたのか、分かりやしない。

もう二度と、恋なんかしないって決めたのに。

「俺は、お前とどうしても会いたかった。もう一度だけでいいからあいつに会わせてくださいって、何度も願った。・・・それが、まさかこんな形で叶うとは思わなかったけど」

これって運命だよな。

そう言って高野さんは微かに笑った。

何言っているんですかと否定したかったけど、高野さんの優しい瞳を見てしまったら、そんなの言えなくなってしまった。

「責任、とってくださいよ」と、気付かれないようそっと呟いた。

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