お題小説

あわせだなんて、どうして
1ページ/1ページ

快晴の休日。

高野さんと歩いていた俺は、教会での結婚式を見かけた。

「今日、結婚式なんですね」

手を取り合い、笑顔で花道を進む新郎新婦。

そんな2人をじっと眺めつつ足を止めると

「・・・そうみたいだな」

と、高野さんも俺の視線の先の方を見た。

皆から祝福され、幸せそうに笑いあう2人。

そこにあるのは、ごく普通の自然な光景だった。

けど・・・俺達は違う。

日本では、同性同士での結婚は認められていない。

かといって、海外で式を挙げればいいというわけではない。

そこにたどり着くまでに、幾多の困難が俺達を待ち受けているからだ。

俺の隣に立つ高野さんの事が気になって、その横顔をちらっと盗み見た。

高野さんは、これを見て何を思っているのだろう。

やっぱり、俺から離れて綺麗な女性と結婚したいと感じているのだろうか。

・・・家族が、ほしいのだろうか。

聞きたい、けど聞けない。

俺が俯いて鞄の取っ手を両手で強く握り締めていると、俺の頭の上に俺より大きい高野さんの手がそっと乗せられた。

「・・・え?」

驚いて顔を上げると、高野さんが呆れた表情で俺を見ていた。

「お前さ、またくだらねぇ事考えているだろ」

・・・どうして、この人はこうも俺の気持ちを見透かしてしまうんだろう。

図星なのが悔しくて、けど情けなくて、何も言えず黙っていると、その手が俺の頭をゆっくり撫でた。

「俺はお前と出会った事を後悔していない。俺が今幸せなのは、全部お前のおかげだから」

「幸せ?」

この人は、何を言っているんだろうか。

「そう。好きなやつがこんなに近くにいて、触れられるところにいて。自分の事も好きでいてくれて、こうして一緒にいてくれる。これ以上の幸せは無いだろ」

まぁ、欲を言えばもう少し素直になってほしいんだけど。

高野さんは、そう茶化す様に付け加えた。

誰が誰を好きなんだって言いたかったけど、何故か涙で視界が滲んできて何も言えなくなってしまって。

「お前、泣いてんの?」

と高野さんが少し驚いた表情で俺を見て、それだけでもうわけが分からなくなってしまった。

・・・高野さんは、こうして抱えきれない程の想いを俺に伝えてくれるのに。

俺は、何も返せていない。

その事を思うだけで、涙が止まらなかった。

それに、それでも高野さんは幸せだと俺に言ってくれたから。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ