お題小説
□しあわせだなんて、どうして
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快晴の休日。
高野さんと歩いていた俺は、教会での結婚式を見かけた。
「今日、結婚式なんですね」
手を取り合い、笑顔で花道を進む新郎新婦。
そんな2人をじっと眺めつつ足を止めると
「・・・そうみたいだな」
と、高野さんも俺の視線の先の方を見た。
皆から祝福され、幸せそうに笑いあう2人。
そこにあるのは、ごく普通の自然な光景だった。
けど・・・俺達は違う。
日本では、同性同士での結婚は認められていない。
かといって、海外で式を挙げればいいというわけではない。
そこにたどり着くまでに、幾多の困難が俺達を待ち受けているからだ。
俺の隣に立つ高野さんの事が気になって、その横顔をちらっと盗み見た。
高野さんは、これを見て何を思っているのだろう。
やっぱり、俺から離れて綺麗な女性と結婚したいと感じているのだろうか。
・・・家族が、ほしいのだろうか。
聞きたい、けど聞けない。
俺が俯いて鞄の取っ手を両手で強く握り締めていると、俺の頭の上に俺より大きい高野さんの手がそっと乗せられた。
「・・・え?」
驚いて顔を上げると、高野さんが呆れた表情で俺を見ていた。
「お前さ、またくだらねぇ事考えているだろ」
・・・どうして、この人はこうも俺の気持ちを見透かしてしまうんだろう。
図星なのが悔しくて、けど情けなくて、何も言えず黙っていると、その手が俺の頭をゆっくり撫でた。
「俺はお前と出会った事を後悔していない。俺が今幸せなのは、全部お前のおかげだから」
「幸せ?」
この人は、何を言っているんだろうか。
「そう。好きなやつがこんなに近くにいて、触れられるところにいて。自分の事も好きでいてくれて、こうして一緒にいてくれる。これ以上の幸せは無いだろ」
まぁ、欲を言えばもう少し素直になってほしいんだけど。
高野さんは、そう茶化す様に付け加えた。
誰が誰を好きなんだって言いたかったけど、何故か涙で視界が滲んできて何も言えなくなってしまって。
「お前、泣いてんの?」
と高野さんが少し驚いた表情で俺を見て、それだけでもうわけが分からなくなってしまった。
・・・高野さんは、こうして抱えきれない程の想いを俺に伝えてくれるのに。
俺は、何も返せていない。
その事を思うだけで、涙が止まらなかった。
それに、それでも高野さんは幸せだと俺に言ってくれたから。