短編

□理由は
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最近、小野寺の俺への態度がおかしい。

俺が「小野寺、資料を取ってこい」と言うと、ブツブツと文句を言いながらも取ってきてくれるが、必ず、目を逸らしながら取ってきた資料を俺に押し付けるようにして渡してくる。

・・・他のやつには、笑顔で渡すのに。

俺が一緒に帰ろうとすると、

「す、すいません!俺、今日用事があるんで!!」

失礼します!

そう言って、風の様に編集部を去っていく。

動作が早すぎて、俺が止める隙もなかった。

・・・お前、ここ一週間ずっと同じ事言い続けているの、気付いてないわけ?

俺が、小野寺に対して何か悪い事をした覚えは全くない・・・とは言い切れないが、それは小野寺が俺を煽るからいけないのであって、断じて俺のせいではない。

もうすぐ校了だし、本格的に忙しくなればそんなの気にしている暇など無くなるのは、分かっている。

そうは言っても、やはり気になるものは気になる。

それが、自分が好きな人に関してなら、尚更。

明日になっても同じような態度をとるなら、今度こそ、小野寺から理由を聞き出してやろう。

そう俺は決意を固め、自分の目の前に残された大量の仕事に、深夜近くまで追われるのだった。

・・・・・・・・・*

仕事帰り、俺は久し振りに横澤と飲みに行った。

過去にお互い気まずい事があったものの、こうして今では普通に飲みに付き合ってくれるのを見ると、「俺は本当に良い親友を持ったな」と、心から実感出来る。

帰り際、横澤に別れを告げて俺は自分の帰り道へ歩きだそうとしたが、その足をふと止めて、俺とは反対側の道を歩く横澤の後ろ姿を、少しの間だけ見つめた。

どうやら、携帯電話を持って誰かに向かって怒鳴り散らしているようだった。

でも、その顔は真っ赤で、ほんの少しだけ笑っている様に見えた。

・・・良かった。

ようやく横澤にも、俺以外にあんな顔をする相手ができたんだな。

そう考えると、必然的に隣に住んでいる想い人の事を思い出す。

あいつ、今どうしてんのかな。

冬の寒さに思わず体を身震いさせながらそんな事を考えると、何だかあいつに無性に会いたくなってきた。

俺は、マンションへの帰路を急いだ。

・・・・・・・・・*

エレベーターから足早に降りると、俺は迷わず小野寺の部屋のインターホンを押した。

ピンポーン・・・

しばらくドアの前で待っていても、小野寺は出て来なかった。

もう、寝ているのだろうか。

時計を見ると、その針は既に1時を指していた。

いつもだったら、俺はこんな時間でもドアをドンドンと蹴ったり、インターホンを連打したり、小野寺の携帯電話にしつこく電話を掛けたりして小野寺に会おうとするが、俺自身が疲れきっていた事もあり、もう諦めて帰ろうとした。

その時、

ガチャッとドアが開く音がした。

「あれ?高野さん・・・」

入り口には、白い箱を持った小野寺が立っていた。

「小野寺、なんだその箱は?」

「え、これですか?えーっと・・・・・・・」

何故か、顔を赤くしていく小野寺。

・・・もしかして。

「それ、俺にくれんの?」

「・・・はい。知り合いにもらったんですけれど、沢山ありすぎて、俺1人じゃ食べきれなくて」

「中身、何?」

「えっと、シュークリームです」

シュークリーム・・・・・・ねぇ。

「・・・ふーん。あのさ、お前それ、本当は自分で作ったんだろ」

「えっ・・・!?」

小野寺は、俺の顔を見て明らかにギクッとした表情を浮かべた。

・・・バレないと思ってたんだな。

「だってお前、手が絆創膏だらけだし。それに、お前と書店に一緒に行った時、お前、お菓子の本が置いてあるコーナーをチラチラと見ていただろ」

「・・・・・・・・・!!」

「・・・なぁ、お前がここんとこ俺に対して様子がおかしかったのって、これが理由?」

「う・・・あの、その・・・・・・はい」

よほど恥ずかしかったのか、真っ赤になって俯いてしまった。

「小野寺」

「・・・はい」

小野寺は、ゆるゆると顔を上げた。

「ありがとう」

「いえ・・・・・・どういたしまして」

一旦上げた顔をまた下げつつ、ボソボソした声で小野寺が呟いた。

・・・・・・・・・*

その後、俺は仕事の疲れなど忘れ、嫌がる小野寺を俺の部屋に連れ込み、2人で一緒にシュークリームを食べた。

箱の中にはシュークリームが2個あって、

「どうせ俺と一緒に食べるつもりだったんだろ?」

と笑いながら言うと

「ち、ちちち違いますよ!!」

と言って、小野寺は拗ねてしまった。

いい加減、素直に認めりゃいーのに。

まぁ、皮はなぜか形が崩れてふやけていたし、中のカスタードは少し甘すぎな気もするけれど・・・

「あのさ」

「・・・何ですか」

「俺にシュークリームを作ってくれたのって、もしかして、この前2人で一緒にケーキを食べていた時、俺がシュークリームも良さそうだったよなって言ったの、覚えていたから?」

そう言うと、小野寺は顔を赤くさせながら、

「な・・・な・・・」

と、ひたすら口をパクパクとさせていた。

・・・やっぱりそうだったんだな。

「俺が言ったの、覚えてくれてたんだな。嬉しい」

そう言って、小野寺をそっと抱き寄せた。

小野寺は、

「別に、そんなんじゃ・・・」

と言っていたが、小野寺をじっと見ていると顔が赤いままだったので、俺の中で、自分の予想が確信に変わったのが分かった。

「シュークリーム、うまかった」

「・・・お世辞なんか言わないでください」

「本当だって。・・・でもさ」

今度作る時は、俺にも声掛けて。

2人で一緒に作ろう。

そう真っ赤な耳に囁いたら、

「・・・分かりました。そうします」

と、小野寺が苦笑を浮かべながら俺に言った。

・・・・・・・・・*

確かに、シュークリームの見た目や味には多少問題があったが、何だかそれが、なかなか素直になれない作り手の小野寺の姿をそのまま映しているみたいで、「そんなシュークリームだったら悪くはねぇな」と思い、そんな自分の考えが何だかおかしくて、思わず笑ってしまった。

そんな俺を見た小野寺が、

「高野さん?どうしたんですか?」

と、不思議そうな顔をして俺に聞いてきたのは・・・

また、別のお話。

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