短編
□もう少しだけ
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高野さんとの衝撃的な再会から、あっという間に時が過ぎた。
「もう、12月も終わりか・・・」
今になって振り返ってみると、今年だけで、本当に様々な出来事があった。
・・・・・・・・・*
小野寺出版を辞めて、文芸がしたくて丸川書店に中途入社したのに、そこでの配属先は、まさかの少女漫画部門・・・エメラルド編集部、もとい乙女部だった。
しかもそこの上司、高野政宗編集長は、実は10年前に少しだけ付き合った事のある、あの嵯峨先輩と同一人物で、あろうことか、事態が飲み込めず混乱している俺に向かって、「もう一度、俺を好きって言わせてやる」とかえらそうな態度で言ってくるし・・・。
その上、高野さんとは家も隣同士である事が分かって、一体これは何の冗談かと本気で思った。
・・・・・・・・・*
それからは、高野さんに振り回されてばかりの日々だった。
・・・まぁ、決して認めたくはないけれど、俺は高野さんの事を、10年前と同じくらいか、もしくはそれ以上に好きだという事を、自覚している。
というか、高野さんと再会してから、無理矢理自覚させられた。
何だか、高野さんの思惑通りになったみたいで悔しいけれど、今となっては、高野さんの幸せそうな顔を見ていたら、何だかこっちまで幸せになってしまうまでに、俺は高野さんに感化されてしまった。
それに、再会してから高野さんをずっと見ていた・・・というのもある。
別に、深い意味は無いけれど。
同じ部署、家が隣同士なら、生活リズムはほとんど一緒なわけで・・・。
高野さんの俺だけに見せる顔があるっていうのも、再会後に初めて知った。
そんな高野さんの傍にずっといたいな・・・という自分自身の強い想いに、驚いた事もあった。
もう逃げられない。
もう離れられない。
そんなのは、もう・・・もう10年前から、ずっとそうだったに違いないんだ・・・。
・・・・・・・・・*
そんな風に、俺が窓辺で夕日に向かって黄昏ていると、不意に、後ろから俺の頭上にパコンと丸めた書類がぶつかった音が聞こえた。
まさか・・・と思い後ろを振り向くと、予想通り、そこにはさっきまで俺の胸中にいた高野さんが、不機嫌そうな顔をして立っていた。
「何さぼってんだ」
「さぼってなんかいません!休憩して・・・」
「分かったから仕事しろ」
「・・・・・・はい」
すいませんでしたね、仕事してなくて。
そう言い捨てて、俺は自分の仕事を再開しようとした。
すると、
「小野寺」
急に呼び止められた。
「・・・何ですか?」
「話なら、いくらでも聞くから」
何か悩んでいる事があるなら、俺に相談して。
不安になる。
心配そうな顔をしながら、俺の目を真っ直ぐ見て、高野さんはそう言った。
「・・・そんな事、言わないでください。ただの考え事ですよ」
事実を言っただけだった。
なのに、
「ふーん・・・。それって、俺の事考えていたの?」
と、高野さんはいきなり核心を突いた質問を投げ掛けてきた。
俺は、思わず後ずさりをしながら、
「・・・違います」
勘違いしないでください。
と言いながら、今度こそ、足早に自分の席に戻った。
「どうか、どうかもう少しだけ、この想いに向き合えるまで、俺の事を待っていてください・・・」
と、心の中で呟きながら。