短編

□幸せを運ぶ翡翠色の鳥
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突然の別れから、10年。

そして、あの運命的な再会を経てから、俺は小野寺にちょっかいを掛け続けている。

どうしても、あいつをまた振り向かせたくて。

自分でも笑ってしまう程必死に、あいつの背中を追い駆けている。

いつだったか、横澤から呆れた様に言われたっけ。

「お前もよく飽きないよな」

とか何とか。

だって、仕方ないだろ。

それでも好きなんだから。

なのに、あいつときたら

「小野寺」

「・・・何ですか?」

俺が声を掛けた途端、これだ。

眉間に皺を寄せて、一気に不機嫌そうな顔になる。

・・・おい、さっきまで木佐に向けていた笑顔はどうした。

「いや、別に何でもない」

「だったら、わざわざ俺を呼ばないでください」

うわ、可愛いくねぇな。

ちょっとは笑顔を見せてくれたっていいんじゃないかと思うけど。

それでも

「今日、俺と一緒に帰れ」

そう耳元で低く囁くと、小野寺はバッと耳を手で押さえて

「な、何でですか!」

と顔を赤く染めて言うから、本当にやめられない。

昔からこいつは、俺が何かをする度にすぐ赤くなる。

それは、再会した今でも変わらない。

けど、それって俺の事を意識してるからだろ?

だったら、少しくらい期待してもいいよな。

・・・お前が、今でも俺の事を好きなんだって。

「俺がお前と一緒にいたいから」

「は・・・はぁ!?何で・・・!」

ほら、また真っ赤になる。

まったく、こいつはどこまで赤くなれば気が済むんだか。

「上司命令だから」

「っ・・・!」

今は、こんな言葉でしかお前を引き留められないけど。

それでも、いつかお前から勇気を出してくれる事を願う。

嫌だなんだと言いつつも、結局お前は今日も流されるんだ。

それなら、とっとと好きだと認めてしまえばいいのに。

そうすれば、お前だって楽になれるだろうに。

お前のためなら、俺は何だってしてやるから。

早く、素直になれよ。

「ほら、帰るぞ」

「ちょ、待ってください、高野さん!」

あぁ、待ってやる。

いくらでも待ってやるから。

その代わり、お前の口からちゃんと聴かせろよ。

俺は黙って、空いていた小さな右手をしっかりと握り締めた。

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