短編

□帰り道
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学校からの帰り道。

俺は、細い路地で一組のカツアゲを見かけた。

「有り金、全部寄越せ」

「い、嫌です!」

いかにもちゃらい格好をした一人の男が、学ランを着たやつの襟首を掴んでその胸糞悪い顔を額がくっつきそうな程近付けている。

そいつはブルブルと震えながら必死に抵抗しているけど、どう見ても蛇に睨まれているカエルとしか思えない。

普通なら、無視すればいいだけの話。

けど、そいつの顔に俺は見覚えがあった。

俺と付き合っている下級生、織田律。

今日は用事があったから先に帰らせたのに、まさかこんな事になっていたとは。

面倒な事になったな。

俺は深く溜め息を吐くと、その男に声を掛けた。

「おい、お前」

俺の声に反応したのか、その男は案の定

「あぁ?」

と、不機嫌そうな顔を俺に向けた。

「そいつ、嫌がってるだろ。やめれば?」

「ハッ、正義のヒーロー気取りかよ。何だお前」

「いいから、離せ」

「何言ってんだ。こいつは…」

「…もう一度、言う」

ここから、今すぐ立ち去れ。

俺が凄みをきかせた声で言うと、男は怯んだのか

「…チッ」

と舌打ちをしつつ、そいつを離し反対側へと歩いていった。

途端

「ケホッ、ゴホッ…!」

そいつはよほど苦しかったのか、何度も咳き込んだ。

「大丈夫か?」

背中をさすってやりながら、俺はそいつの顔を覗き込んだ。

…って、何やってんだ俺。

「はい。大丈夫、です。あの…ありがとう、ございました」

「いや。てか、何でお前あんな男に絡まれてたの?」

「ちょっと肩がぶつかって、それで…。迷惑かけましたよね、すいません」

そいつは、苦しそうに息をしながら繰り返し繰り返し俺に謝った。

「いいって。お前が何ともなくてよかった」

「先輩…」

しばらくぼんやりと俺を見つめると、そいつは俺の視線に気付いたのか慌てて目を逸らした。

「え、あ、その…すいません。俺もう帰りますね。助けていただいてありがとうございました」

それでは。

早口でそう言い、ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとしたそいつを俺は思わず引き止めた。

「待て」

「先輩…?」

こいつを引き止めたりなんかして、俺は何をしたいんだろう。

目の前にある顔が、見れなかった。

「途中まで、一緒に帰らない?」

俺がそう聞くと、そいつはきょとんとした顔になり

「へ?」

と、固まってしまった。

「だから、途中まで一緒に帰らないかって」

分かりやすいよう言い直すと、そいつは顔をぼっと蒸気させた。

「せ、先輩…!」

あわあわとしているそいつをよそに俺が歩き出すと、そいつはぎくしゃくしながら俺の後をついてきた。

本当は、またあんな事があったら心配だから、なんて格好悪くて言えなくて。

一緒に帰ったところで、特に何があるわけでもないのに。

それでも、何も言わずこいつは嬉しそうに俺を受け入れてくれる。

それは多分、俺だから。

そして、こいつは知らないだろうけど、俺がこいつを誘うのも、こいつだから。

他の誰かなんて、考えられない。

こいつがいれば、もう何もいらないんだ。

途中までと言ったのに結局最後までついてきてしまったこいつに呆れと少しの嬉しさを感じつつ、俺はこいつと共に猫しかいない家に入った。

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