多分長編なんだと思う
□策士と部員の適切距離
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馬鹿と真田は使いよう、なんて言ったら酷いかな。
真田の場合、馬鹿は馬鹿でも"馬鹿正直"なんだけど。
テニス全然知らなくて、それでも頑張ってマネージャー任命翌日にはスコアを付けてた努力。
それを知りたくて真田に話してみれば、真田は感心しつつ、本人に聞いてみると言い出した。
そして、今に至る。
馬鹿正直な真田は、基本的に空気は読めないけど、こういう時に助かる性格はありがたい。
衝撃の事実で呆然とするレギュラーメンバーを尻目に、苦笑いする名字さんを柳生が呆れて見る。
笑ってないで説明しろ、と言う仕草だ。
「やるからにはやるだけだよ」
そう言って、ドリンクとプロテインの発注にかかる名字さん。
答えになってない。
わざわざ隠れてやらなくても、聞けば教えたのに。
「何考えてるか表情に出てるよ」
名字さんはそう言った後に、ため息を付いた。
だから回答をしろ、と、視線で促せば、ポソポソ呟く様な回答。
「あれだけ謀をしたんだからさ、何をやっても疑われるでしょ。真面目な振りとか、いい子ぶりっことか」
「そこまで、普通は考えないよ」
名字さんは、視線を仁王に向ける。
仁王は視線を反らせた。
ああ、仁王は警戒心強いからね。
「いいんだよ、疑惑の視線で見られても。ただね?思考にしろ、教える時間にしろ、みんなに手間や時間を掛けさせたくなかっただけ」
発注が終了したのか、何かを控えて蓮二に渡す。
蓮二が受けとると、名字さんは立ち上がった。何も言わずに。
「また、誤解される様な態度を取って…」
柳生がため息を付く。
ちょっと名字さんの人なりが分かった気がする。
どんな人かと言われれば言葉には出来ないけど、彼女は悪い人じゃない。
ただ、距離を取るのが上手いんだと思う。
俺達テニス部がモテるのは、全員自覚している。
女子から妬まれない立場。
俺達から嫌われず、且つ"信用"される立場。
「好かれなくても、"信頼"されなくてもいい、抜群の距離を取ろうとしてる。絶妙なポディションを確保するつもりか」
「…流石ですね、柳君」
同じ考えだったらしい蓮二を、柳生が肯定する。
計算しているなら、大したものだよ。
「称号を与えるなら、策士、かな」
俺が言えば、蓮二も同意見だったらしく、軽く唇に笑みを乗せた。