多分長編なんだと思う

□詐欺師と策士の痼融解
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言ってしまった言葉の訂正は難しいんじゃ。

"おまんのペテンには引っ掛からんぜよ"

掛かっている中で放った台詞は、今は寧ろ恥ずかしいくらいじゃし。

名字は気にしとらんだろうが。

「詐欺師、次コートへ」

じゃがのぅ…。

ペテンに掛かった詐欺師が、ペテンを掛けた策士に詐欺師と呼ばれてるのは、ちょっと…のぅ。

微妙な気持ちにもなるもんぜよ。

その割に口調は変わらずで嫌みがなくて、ついスルーしてしまいがちじゃが。

「名字、せめて名字で呼べ!チームメイトだろう」

真田が怒鳴る。

参謀は言っとった。

名字は絶妙の距離を取ろうとしちょる、と。

名字で呼ばなくなったのも、その為かもしれん。

…寂しい訳じゃないき、寂しい訳じゃ。

「承知しましたよ、副部長。仁王君、コートへ」

「分かっとるよ」

「…怒るよ、柳生君」

あっさり見破られ、柳生が眉を下げる。

流石じゃ。

前は比呂君と呼んでいたが、今は柳生君。

幼なじみとも、遠慮なく距離を取る気らしい。

「仁王君」

「分かっとるよ」

全く同じ台詞を今度言えば、名字は相変わらず無表情でスコアボードを開いた。

「色々考えずともいいよ、あれは。疑心暗鬼だったから、余計騙され易かっただけ」

考えを読んできおった。

「そうだね。気にかける位なら誉めてよ。詐欺師仁王を詐欺に掛けた事」

誉める、か。

その発想はなかったのぅ。

「お前さんの方が詐欺師に向いちょる」

遠回しな誉め方をしてみたが、名字はクックッと喉を鳴らす。

「うん、ありがとう」

遠回しに言っても、勘付いてきよった。

つくづく、怖い女じゃと思う。

じゃが、不思議と最初みたいに距離を計り兼ねる事はせんでは良くなったのう。

名字の策じゃろうが。

確かに、距離の計り方が上手い。

こっちの心情を察してか、名字から距離を計って、丁度良い位置に来とる。

的確で、一番いい位置じゃ。

近すぎず、遠すぎず。

名字はまっこと怖い女じゃとは思うが、最初みたく苦手ではのうなったぜよ。

「名字、お前さんの事は嫌いじゃないナリ」

流石に驚くと思ったが、名字は余裕たっぷりに笑った。

「私も仁王君は嫌いじゃないよ」

…成る程の。大したタマじゃ名字は。

策士とは、まっこと怖いもんじゃな。

わざと詰めた距離を、また離す。

怖いが、面白い女じゃよ、名字は。

ま、蟠りが解けたのは良かったのう。

正直、ホッとしたナリ。
 

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