多分長編なんだと思う

□氷帝と立海の策士を巡る一コマ
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精市と蓮二に人間観察眼を生かした感想などを、名字は報告している。

我が立海からも名字は評価は高いが、氷帝からの名字の評価も高かった。

うむ、予想通り。

ミーハーじゃない、その一点だけでもかなり評価されはする。

跡部の私設のテニスコートなのだから、当然声援は各校の部員だけ。

今日は女子もいないが、名字が以前声援を静めた事もあった。

それを、赤也があちらの二年…、確か日吉だったか。
其奴に漏らしたらしい。

別段、不味い情報ではないから構わないが。

その話と、跡部がどう名字の話をしたか知らないが、何故か氷帝への転校話まで持ち上がっている。

入学費、学費、制服及び教科書代の免除。

言うなれば、特待生待遇。

まだ、話として持ち上がっている段階であり、名字に正式に伝えられた訳ではないが。

非常に、不愉快であるのだ。

名字は我が立海のマネージャーだ、どこにもやらん!

「真田、顔がいつも以上に不愉快だよ」

「精市」

蓮二のフォローに精市が笑う。

「あ、間違えた。不愉快そうだよ」

「部長、わざと間違えたね」

「いいんだよ」

幸村が辛辣な言葉を俺に投げるのは何時もの事。

…なのだが、もう少し言い方があるのではないか。

名字も名字で、咎めない。

「失礼するよ」

む。氷帝の滝。

「名字名無しさんさんをちょっと借りたいんだけど、いいかい?」

「用件は?」

幸村がにこやかに問い質すが、背景が黒い。

滝は一瞬だけ驚いたが、同じく黒い物を醸し出した。

同じ属性らしく、寒気がする。

この辺りだけ、温度が明らかに低い。

その証拠に蓮二は僅かに後ろに下がり、こちらに向かっていた赤也は、180度向きを変えた。

丸井とジャッカルは視線を外し、柳生と仁王はこちらに気付かない振りをしている。

肝心の渦中の人物である名字は、あろう事か傍観するつもりらしい、いつもの笑いで二人を見ていた。

「決めるのは、名字さんだろう?」

「まさか。権限は部長である俺だよ」

「だそうだよ、滝君。因みに」

名字は喉を鳴らして笑う。

「如何なる待遇でも、氷帝に転校は致しかねます」

言葉に詰まる滝を見た限り、どうやら借りた後はその話をするつもりだったらしい。

こちらも、まさか名字がきっぱり断るとは思わずメンバー全員が面食らった。

その後はつい、顔が緩む。

精市も蓮二も、名字に柔らかく笑う。

「うむ。名字を氷帝にはやれん!」

「「…」」

蓮二と精市が、何とも言えない視線で俺を見た。

言うなれば、生暖かい視線とでも言うか。

「君のところの副部長は父親みたいだね」

「!?」

滝の言葉に驚愕したが、名字はまた喉を鳴らして笑う。

「だそうだよ、パパ」

「!!?」

パ、パ、パパ!?

「君が言うと、犯罪的な匂いがするね」

「あはは。滝君、跡部君に伝えて。転校は出来ないけれど、条件次第では相談に乗る、とね」

「分かったよ。じゃあ、またね」

滝を見送り、未だに呆然とする俺に精市は言った。

「何時までも呆けてないで、走って来いよ、真田」

「うん、取り敢えず20周かな。迷子にならないでね、副部長」

この名字と精市、この二人は俺に恨みでもあるのだろうか。
 

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