長編

□あちらとこちらの連理共鳴1
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【呉芭サイド】





「うはぁ、折角来たのに雨じゃんね」

梅雨だから、急に雨が降ったりはよくあるけど。

「仕方ないよ、はい。傘」

「…傘挿して出ろってか」

静芭から渡された傘を、私はぼやきながら渋々受け取る。

「海に行って叫びたいって言ったの、貴女でしょう」

雨だから叫んでも、恥ずかしくないじゃない。と静芭は目を細めて言う。

確かにそうだ、と私は苦笑した。

私は大きめの赤い傘を挿して、海へ向かう。

雨だけど、海風以外は大した風じゃない。

駐車場から然程歩かず、砂浜へ。

波が砂浜に押し寄せては、引いていく。

「浮気とか、ふざくんなー!マジくたばれ!ファック!」

叫んでも、すっきりしない。

ただ、涙がボロボロ出た。

「うわぁぁぁん!」

傘を投げ出して泣きじゃくってみれば、静芭が私を自分の傘にいれる。

そのまま抱き締めて、背中を叩いてくれた。

「…、ちょっと、」

不意に静芭が困惑した言葉を漏らす。

変な事してないのに、と戸惑って静芭を見るけど、さっき落とした傘を拾って押し付けられる。

何なんだと、静芭を視線で追えば、人がずぶ濡れのまま立っていた。

「ちょっと!貴方達、何をしてるの!風邪ひくでしょう!」

「…ほっておいてくれる?」

「却下ね。生憎私は濡れたい子をそっとしとける程には優しくないの。来なさい」

静芭が、一人の手を引いてこっちに来る。

「何をしてるの。貴方達も来なさい」

呼ばれた少年達は、困惑と混乱しつつ渋々静芭のところへ。

「わ、何で君達はこんなに濡れてんの」

自分が泣いてたのも忘れて、静芭と同じく少年を傘に入れる。

「いや、いらん。もう濡れとるき。あんた、濡れとらんじゃろ。自分で使いんしゃい」

「一人だけ濡れないの、気まずい」

言って私は傘を押し付けた。

「車に行く?」

「しかないでしょう。こんなに冷たくなって…。全く、何をしてたの!?」

「こちらが聞きたい」

静芭に手を引かれた子が叫ぶ。

「兎も角、事情は車で聞いてあげるから。着替え、ある?」

「…一応、テニスバッグに入ってる。濡れてなければ」

年長者らしい子が言うと、静芭は車のトランクを開けて、雨よけにした。

「ちょっとは濡れるけど、ないよりマシでしょう。二人ずつ着替えて、中に入りなさい」

「あぁ、濡れた着替え入れもいるよね。ビニールビニール」

ビールを出して、ビニール袋を用意。

「これに入れな」

渡して、私達は外に出た。

静芭の車が、ワンボックスカーで良かった。

「ねぇ、」

赤髪の子が揺れる視線を向ける。

「ここ、何処。立海って知ってる?」

「いや、神奈川の海だけど。立海って何?」

少年の瞳に絶望が映った気がした。

「わ、ちょっと泣かないでよ!」

「帰りたい…」

「送ってあげるから!」

「どうやって?」

「車で」

言うと、少年は俯く。

「無理だね」

青み掛かった髪の毛の少年?少女?どっちか分からない子が、いい放った。

「俺たち、どこから来たか分からないんだよ」

困った笑顔の割に冷えた言葉が、木霊した気がした。
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