長編

□あちらとこちらの連理共鳴2
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【柳サイド】





五時半、下に降りれば、丁度呉芭さんと鉢合わせした。

「あら、おはよ、蓮二君。良く眠れた?」

「おはようございます。お陰様でよく眠れました」

「そかそか。良かったよ」

呉芭さんと二人、洗面所で顔を洗う。

僅かながら洗面所の窓の奥から溢れる、雨の音。

残念ながら、今日も雨らしい。

呉芭さんと静芭さんがいなければ、野宿ですらどうなった事か分からない。

「ちょっと道場に行くから。その後ご飯作るからね」

道場、と言うからには彼女も何かしらたしなむ物があるのだろう。

データ収集からか、興味が沸いた。

「ご迷惑でなければ、ご一緒しても?」

「いいよ、見ても楽しくないかもだけど」

「ありがとうございます」

弦一郎は、いつも四時に起床する。

部屋におらず、ダイニングにもいない。
外は雨。

となれば、道場にいる確率100%だ。

共に道場へ向かう。

やはり弦一郎もそこにいた。

「おはよ、静芭、弦一郎君」

「おはようございます」

「おはよう、呉芭、蓮二君」

「はい、おはようございます」

呉芭さんは、到着するなり栗色の長くウェーブの掛かった髪を高い位置で結ぶ。

静芭さんも、既に黒い髪を首の辺りで結んでいた。

従姉妹、と言うが、余り似ていない。

良くみれば、輪郭や鼻のパーツは似ているが、纏う雰囲気が対照的なせいか、友人と言われた方がしっくり来るだろう。

静芭さんは、凛とした印象を受ける。

呉芭さんは、柔らかな優しい印象だ。

二人とも間違いなく美人だが、質が違う。

そう言えば、食べ物の好みも違う。

尤も姉妹ですら似ていない事も多々あるのだから、別段おかしい訳ではないのだが。

俺には血を分けた姉がいる。

その姉と静芭姉さんと呉芭姉さんは、同じ女性とは思えない程に違う。

背負う影と、分からない何かが、二人と姉を完全に違うものにしている。

静芭さんが刀を置くと、共に道場の中心へ。

「危ないから、近付いちゃダメよ〜。さて。お願いしまっす」

「お願いします」

互いに礼をし、構えを取る。

拳法の構えらしい。

睨み合っていたが、呉芭さんが先に動いた。

「!」

速い!互いに一瞬。

繰り出される、拳や蹴り。

素人が見ても、達人同士の戦いだと分かる。

怪我を本気で心配する程に。

スレスレで交わされた蹴りに、切れ長の目が細められる。

黒曜石の瞳をしたそれに、強い眼光が灯るった。

それを見た優しい垂れ目が、鋭さを帯びる。

栗色の瞳にも、眼光が灯った。

繰り出される技。

「っと!」

「相変わらず、読み易い」

「だったら、これは?」

呉芭さんの表情が真剣になった。
と、同時に、ビリビリと空気が音を立てる。

驚愕と同時に、背中がゾクリとした。

弦一郎はよく平気だと思ったが、弦一郎の首筋に汗が浮かんでいた。

二人の動きを目で追うが、勝負はなかなか付かない。

だが、突然互いに距離を取った。

そして、再び礼。

もしや、勝負が付いたのだろうか。

「うーん。あと少しな気がするのに!」

「残念ね」

どうやら、呉芭さんの負けらしい。

「じゃあ、ご飯作りに行きましょうか。弦一郎君、蓮二君、ここ使うなら使って構わないから。筋トレ用の部屋もあるけど、そっちを使う?」

「宜しいのですか?」

「勿論」

俺は静芭さんに礼をいい、トレーニングルームを案内して貰う事にした。

弦一郎は、まだ道場にいる積もりらしい。

姉と違う何かが、今わかった気がする。

殺気だ。

普通の女性では持たないだろうそれが、二人の底にある気がした。

弦一郎と別れ、俺は静芭さんと呉芭さんと共に家へ戻った。

よく、あの組み手で怪我をしないものだと感心しながら。
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