長編
□あちらとこちらの連理共鳴2
2ページ/8ページ
【柳サイド】
五時半、下に降りれば、丁度呉芭さんと鉢合わせした。
「あら、おはよ、蓮二君。良く眠れた?」
「おはようございます。お陰様でよく眠れました」
「そかそか。良かったよ」
呉芭さんと二人、洗面所で顔を洗う。
僅かながら洗面所の窓の奥から溢れる、雨の音。
残念ながら、今日も雨らしい。
呉芭さんと静芭さんがいなければ、野宿ですらどうなった事か分からない。
「ちょっと道場に行くから。その後ご飯作るからね」
道場、と言うからには彼女も何かしらたしなむ物があるのだろう。
データ収集からか、興味が沸いた。
「ご迷惑でなければ、ご一緒しても?」
「いいよ、見ても楽しくないかもだけど」
「ありがとうございます」
弦一郎は、いつも四時に起床する。
部屋におらず、ダイニングにもいない。
外は雨。
となれば、道場にいる確率100%だ。
共に道場へ向かう。
やはり弦一郎もそこにいた。
「おはよ、静芭、弦一郎君」
「おはようございます」
「おはよう、呉芭、蓮二君」
「はい、おはようございます」
呉芭さんは、到着するなり栗色の長くウェーブの掛かった髪を高い位置で結ぶ。
静芭さんも、既に黒い髪を首の辺りで結んでいた。
従姉妹、と言うが、余り似ていない。
良くみれば、輪郭や鼻のパーツは似ているが、纏う雰囲気が対照的なせいか、友人と言われた方がしっくり来るだろう。
静芭さんは、凛とした印象を受ける。
呉芭さんは、柔らかな優しい印象だ。
二人とも間違いなく美人だが、質が違う。
そう言えば、食べ物の好みも違う。
尤も姉妹ですら似ていない事も多々あるのだから、別段おかしい訳ではないのだが。
俺には血を分けた姉がいる。
その姉と静芭姉さんと呉芭姉さんは、同じ女性とは思えない程に違う。
背負う影と、分からない何かが、二人と姉を完全に違うものにしている。
静芭さんが刀を置くと、共に道場の中心へ。
「危ないから、近付いちゃダメよ〜。さて。お願いしまっす」
「お願いします」
互いに礼をし、構えを取る。
拳法の構えらしい。
睨み合っていたが、呉芭さんが先に動いた。
「!」
速い!互いに一瞬。
繰り出される、拳や蹴り。
素人が見ても、達人同士の戦いだと分かる。
怪我を本気で心配する程に。
スレスレで交わされた蹴りに、切れ長の目が細められる。
黒曜石の瞳をしたそれに、強い眼光が灯るった。
それを見た優しい垂れ目が、鋭さを帯びる。
栗色の瞳にも、眼光が灯った。
繰り出される技。
「っと!」
「相変わらず、読み易い」
「だったら、これは?」
呉芭さんの表情が真剣になった。
と、同時に、ビリビリと空気が音を立てる。
驚愕と同時に、背中がゾクリとした。
弦一郎はよく平気だと思ったが、弦一郎の首筋に汗が浮かんでいた。
二人の動きを目で追うが、勝負はなかなか付かない。
だが、突然互いに距離を取った。
そして、再び礼。
もしや、勝負が付いたのだろうか。
「うーん。あと少しな気がするのに!」
「残念ね」
どうやら、呉芭さんの負けらしい。
「じゃあ、ご飯作りに行きましょうか。弦一郎君、蓮二君、ここ使うなら使って構わないから。筋トレ用の部屋もあるけど、そっちを使う?」
「宜しいのですか?」
「勿論」
俺は静芭さんに礼をいい、トレーニングルームを案内して貰う事にした。
弦一郎は、まだ道場にいる積もりらしい。
姉と違う何かが、今わかった気がする。
殺気だ。
普通の女性では持たないだろうそれが、二人の底にある気がした。
弦一郎と別れ、俺は静芭さんと呉芭さんと共に家へ戻った。
よく、あの組み手で怪我をしないものだと感心しながら。