長編

□あちらとこちらの連理共鳴3
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【静芭サイド】





ここ一年不眠気味だったけれど、彼らが来て良く眠れる様になった。

「弦一郎君は、もう起きてるのかな」

時間は四時。

昨日はお風呂に入って直ぐに眠たくなってしまった。

呉芭が驚いてたけど、喜んでもくれた。

心配掛けていたんだと、改めて思う。

洗面所で顔を洗い、保湿する。

髪を鋤き、ダイニングへ。

弦一郎君はいない。

道場だろうか。

愛刀を持って道場へ行けば、彼はいた。

重りの入った竹刀を握って、素振りをしている。

一瞬だけ弟とダブり、泣きそうになった。

頭を振って、考えを切り換える。

「おはよう、弦一郎君」

いつも通りを装い、弦一郎君に話しかける。

「おはようございます、静芭姉上」

「うん。私も素振りしていい?」

「勿論です」

私は弦一郎君の横に間隔を開けて並び、菊一文字を振るう。

無心に、ただ、何も考えない様に。

「静芭姉上」

不意に、弦一郎君に呼ばれて我に返る。

弦一郎君の顔を見れば、彼の戸惑いを浮かべた瞳とぶつかった。

「どうしたの」

「お願いが、あるのですが」

「うん?言ってみて。遠慮せずに」

戸惑いつつ、遠慮がちに口を開く弦一郎君。

撫でたくなる衝動を押さえ、聞いてみた。

「手合わせをして頂けませんか」

「防具がないよ」

うちは、防具を付けるのは7歳までだと決まっていた。

より実戦に近付ける為に、防具は置かない。

怪我を覚悟で手合わせをする。

尤も、木刀だから怪我と言っても打ち身ばかりだけど。

下手をすれば骨折。

怪我をさせたくないからと手加減をしたくなる衝動を押さえ、毎日の様にやさられていた。

「防具がない…」

やはり、驚かれた。

けど、彼は真っ直ぐに私に言う。

「構いません」

意外な答えに、こっちが戸惑ってしまう。

「私、普通の剣道をしらない。不破城流だから、足を狙ったりするよ」

「実践的なのですね。それでも構いません」

どうやら、弦一郎君は本気らしい。

「仕方ないね」

承諾すれば、彼の目が輝く。

益々、弟とダブり、慌てて竹刀を取りに行った。

「静芭さん?」

「うん?」

平静を装い、彼に竹刀を渡す。

「あ、いえ。宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いします」

言って、二人道場の真ん中へ進み出た。
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