長編
□新世界で奏でるlife1
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身代わりになったのに、然したる後悔はない。
願わくは、彼らが決して負い目を追わぬこと。
財産は保証された。
体もある。
心残りと言えば、残してきた呉芭の事だけ。
私が来たこちらは知らない世界とは言え、概要は大して相違ない。
ただ、立海テニス部を調べてはみたけれど、彼らの名前はなかった。
『俺は同じ世界に送るとは言っていない。死んだらあの世で会えるさ』
会えない事に、酷く失望した。
会えない事が、一番辛い。
私の体は小さくなって、子どもになっていた。
多少伸び縮みは宣告されていたものの、どう考えても「多少」ではないだろう。
20歳だったのに、戸籍では10歳。
それを照らし合わせて考えるに、体も10歳として創造されているのだろう。
半分の年だ。
納得など、行く筈もない。
更に言えば、親などの家族は用意出来なかったらしく、「事故死」扱い。
しかも、こちらに来る前日に。
状況に付いていけない私は、都合よく記憶喪失扱いされた。
引き取り手がいない私だが、宗家当主としての財産分がほぼ用意され、財産に群がる大人達を見てしまい、非常に気分が良くない。
相続税を支払っても、かなりの額が残る。
財産目当てに引き取られても、録な事がないではないか。
「冗談じゃない」
片っ端から突っぱねてやった。
こんな事なら、財産の殆どを寄付してやる。
そう考えて、家は国に寄贈。
財産を殆ど手放した途端、引き取り手はいなくなる。
「精々した」
私は失笑した。
余りにも馬鹿げた茶番。
だが生憎と私はそこまで馬鹿ではない。
不動産関連と株は残しておき、家賃収入と株主特典だけは入る様にしている。
寄贈した額の大きさと派手さ、或いは子どもであるが故に全て寄贈したと思われているのは幸いだ。
家をなくした私は、児童養護施設へ送られる筈だ。
準備は出来ている。
「失礼するぞ」
迎えが来た。行かなくては。