長編

□青の双璧1
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「桃城君?」

私が問えば、彼は顔色を悪くした。

「君はレギュラーの座、要らないの?」

「う。」

「兄さんには黙っててあげる。新入部員カモにしてたの止めたから」

「さ、サンキュー」

私がさっさと割って入っても良かったが、竜崎先生の言ってた子に興味があった。

越前リョーマ。

入学式をすっぽかした子だ。

あれを傍観していたのだから、私も同罪。

勿論、何かあった時の為に備えてはいたけれど。

自主的にグラウンドを走ったのが昨日。

そして今日も揉めている。

「流石に止めた方がいいか」

そう思ったが、視線の先には青学レギュラージャージ。

彼らが止めるだろうと、私はマネージャーの仕事に戻る。

横目で彼を見て、驚愕した。

次に口元が緩むのを感じる。

いい新入部員が入りそうだ。

兄さんは、これを見ているだろう。

ランキング戦が面白くなる事請け合いだ。

「荒井君達は、押さえておいた方が良さそうだと思ってたけど。必要なさそう」

兄さんの様に怪我をさせたくない。

監視はしていたが、完全に相手を圧倒している。

あの分なら、問題なさそうだ。

一応、釘はさしておくが。





ランキング戦が開始された。

マネージャー希望だった子は、殆ど初日で辞めている。

念のために言うが、苛めた訳ではない。

付いていけなかったのだ。

唯一残った一年生に、私は仕事を教えている。

「先輩は、ずっとこれを1人でやってたんですか?」

「去年夏まで三年生がいたから、ずっとではない」

「でも、半年は1人だったんですよね」

「うん。でも、本当に大変な時は、レギュラー以外のメンバーが手伝ってくれるから」

ドリンクを持って移動し、新マネージャーに休憩を言い渡す。

私は体を暖める準備をしている海堂君に声を掛けた。

「打ち合い手伝おうか」

「…あぁ」

二人で打ち合うのを、一年生たちが呆然と見てる。

「一年生。打ち合い見るより、試合を観た方が勉強になるよ」

すみません、と慌てて戻る彼らを横目に、私はラケットを振り続けた。

「そろそろだね。頑張って。応援してる」

「おぅ」

フシュゥゥゥゥウと息を吐く彼の背中をポンと叩き、ランキング戦見学に戻る。

「すみません、大石先輩。遅くなりました」

「いや、いいよ。こちらこそ選手のサポートお疲れ。本来のマネージャー業じゃないのに、悪いね」

「いえ。打てるの嬉しいですから。先輩こそ、マネージャーの仕事、やって下さってるじゃないですか」

トントン、と得点を記入する総当たり表を叩けば、苦笑が反ってきた。

「静芭」

「兄さん」

「手塚」

試合にはまだ時間がある筈の兄さんに呼ばれたのは、意外。

試合ではないにしても、部長として部員の試合を見ているのに。

どうしたの、と聞く前に兄さんが口を開いた。

「来い」

何だと言うのだろう。

私は疑問に思いつつ、大石先輩に会釈をし、後を追う。

連れて来られた先には、竜崎先生と女子テニス部の顧問と部長。

状況が分かり兼ねて、私は兄さんを見上げた。

「女子テニス部員でランキング選に入る部員が、来る途中怪我をしたらしい」

迎えに行け、と言う事だろうか。

いや、違う。

それならば、私1人で行けばいい。

「手塚さん。あ、手塚君も手塚だったわね」

私の思考を遮る様に、女子テニス部顧問…、確か竜崎小百合先生だったか。

彼女が口を開いた。

「静芭さん。女子テニス部の、ランキング戦。穴埋めに貴方が欲しいの」
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