長編
□青の双璧7
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翌日、兄さんと早めに部活に行く。
マネージャーの普段を軽くする為に毎日ドリンクだけは作っているが、今日はそれが終わると乾先輩に呼び出された。
「静芭さん」
「はい」
「単刀直入に聞く。君は、蓮二か氷帝の日吉と付き合っているのか」
「は?」
まさかこんな理由だとは思わず、つい間抜けた言葉を返してしまった。
「ありえません」
だが、乾先輩は私の回答に納得出来なかったらしい。
「駅までは日吉、駅からは蓮二と帰宅していた」
もしかして、私と一緒に帰りたいと思ってくれたのだろうか。
何か用事があったのかもしれない。
昨日は帰宅しないか、と誘って頂いたのだし。
「日吉君は送ってくれただけです。昨日は、絡まれてましたし。蓮二君はホームで一緒になったので、折角だからと」
「…。そうか。な、なら」
乾先輩は迷う素振りを見せつつ、再び口を開く。
「なら、今日は…。俺と一緒に帰ってはくれないか」
小さく呟かれたそれは、少し震えた声で伝えられた。
「分かりました。アリアか兄さんと三人で帰りましょう」
「い、いや。二人がいいんだが。ダメかい?」
「いえ。あぁ、それと、私は帰宅時間が遅いのはご存知ですよね。それでも構いませんか?」
アリアには、言っておけば済む。
乾先輩は人に言えない用事があるかもしれない。
「ああ、構わない。練習には付き合おう」
「ありがとうございます!練習、楽しみです」
「あぁ。俺も、楽しみにしているよ」
何故か顔を赤くする乾先輩に、私は首を傾げた。
練習が終わり、乾先輩と帰宅する。
当然ながら、周りから注目された。
「どこか寄るところはないか?」
「ありがとうございます、大丈夫です」
私が返すと、乾先輩のやや困った顔。
何故かこの困った顔が好きだとアリアに言えば、引かれたけれど。
更に言うなら、兄さんの困った顔も好き。
自覚がないSじゃないの?とアリアは苦笑いした覚えがある。
「乾先輩は寄るところはありませんか?」
私に聞くのは気遣い以外に寄りたい場所があるからではないだろうか。
現にまた困った顔をされた。
「…すまないな。少し本屋と、スーパーに行きたいが、構わないかい?」
「え?スーパー?」
あぁ、乾汁を作るのか。
「新しい乾汁を開発しようと思ってね」
私は兄さんの顔を思い浮かべ、引き吊ってしまった。
大事な兄に、あんな人間の飲み物かと疑う物を飲ませたい妹など皆無だろう。
「乾先輩」
「どうした」
「乾汁、どうにかなりませんか?女子も竜崎先生、小百合先生経由で来るんですが、毎回アレンジが大変なんですよ!」
驚く乾先輩を正面に据え、私は尚もいい募る。
「いいですか、あれは最早食材への冒涜、そして生ゴミです!」
「な、生ゴミ…!」
「多少不味いなら罰にはなるでしょう。しかしながら、味覚正常者にとっては毒とはかくありき、と言うレベルです」
「ど、毒…!」
「乾汁の開発を、即刻中断して下さい」
「わ、分かったよ。君がそこまで言うなら…」
了承してくれた事に安堵の息を漏らす。
フラグが回避された事に、かなり安心してしまった。
「ご理解ありがとうございます。本屋は喜んでご一緒しますから」
安心していたが、私はこの時、乾汁ではなく青酢やいわし水の開発フラグだとは全く気付かなかった。