長編
□青の双璧13
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病み上がりだと父さんと母さんに反対されたが、それを押しきって九州に向かう。
兄さんに会いたかったからだ。
電車を使い空港へ行き、飛行機で福岡へ。
福岡から更に飛行機を乗り継ぎ、宮崎に。
後はバスに乗って兄さんに会いに来た。
部活は自主トレ期間で、一応は行われてているが、あと4日は強制的な休みを言い渡されているから問題ないだろう。
病院に来たが、兄さんが居なかった。
ランニングか、球打ちだろう。
探しに行こうと持ってきたジャージに着替えていれば、扉が開いた
。
「…っ!?」
兄さんが戻ったらしいが、扉が閉まる。
幸い下は着替え終わっている。
後は上だけ。
着替え終わり服を畳むと、病室前で待ってくれている兄さんの元へ。
「ごめんなさい。勝手に入って、着替えて」
「全くだ」
兄さんの顔が赤い。
「何故ここにいる」
「兄さんに会いたかったからに決まっているよ」
「来るなら来ると連絡しろ」
連絡は五時間前にメールで入れている。
電話も掛けたが、出なかった。
つまり、携帯を持たずにいた。
それは、トレーニング以外に考えられない。
五時間以上前からトレーニングしていた、いい証明だ。
「無理はしないでね?」
「あぁ。分かっている」
兄さんが私の頭を撫でる。
久しぶりの感覚。たまになら撫でられるのも悪くはないな。
「高島から、お前の試合のDVDが届いた。いい試合だった」
アリア、そんな事してたのか。
「最後に倒れたが、大丈夫だったのか?」
「うん、大丈夫」
「ならば、いい。良く頑張ったな」
「うん!ありがとう。男子も頑張ったよ」
そう言う割には、一瞬影が宿った兄さんの相貌。
全国大会に間に合うか、不安なのだろう。
「何故なんだろうな。お前とは血の繋がりがないのに、あの試合は昔の俺を彷彿させた」
「!」
嬉しい。兄さんの試合を彷彿させるなんて!
「無我の境地の連続発動。更に、百錬自得の極みまでたどり着くとはな」
「…。…? うん?」
「気が付いていなかったのか。最後の一球、扉を開いたまま右手に纏った事に」
「はい?」
え、なに、ちょっと待って。
最後の辺り余り記憶にないけれど。
「無意識の発動か」
兄さんの台詞に、私は暫くフリーズしてしまった。
百錬自得の極みまでやった、と言われても。
あれはマグレで、覚えてなどいる筈もなく。
兄さんと軽い打ち合いしながら、その事を頭のどこかで考えてしまう。
空の色が黒くなっきた今でも悶々と考えて落ち着かない。
予約していたホテルから出て、結局ポール打ち。
ボールは三つ。
兄さんみたいに狭い感覚では出来ないから、練習しかない。
「女ん子とけ、こげんところでようボール打ちばすっとね。危なかよ、暗かけん」
言われて振り替えれば、背の高い男性。
「来んね。明るか所のあったい」
「あ、ありがとうございます」
付いて行けば、確かに明るい場所。
「千歳千里て言うったい。一度会ったと覚えとる?」
「え?」
記憶にないのだが。
「大阪で会っとおよ。くじ引きの券ば、金ちゃん…、赤髪のこい位の男ん子にくいたろ?」
方言が今一分からないが、大阪、くじ引きの券、赤髪の子には心当たりがあった。
「あぁ、そんな事もありましたね」
「その時におったとよ」
「そうなんですか」
「名前ば知りたか。教えてくれんね?」
「あ、はい。手塚静芭です」
頭を下げて言えば、千歳さんはキョトンとした。
「手塚国光の親戚?」
「妹です」
かなり驚かれた。
「血は…。いや、よか。聞く事やなかね」
そこまで分かるのか。
良く似ていると言われるのに。
「気にしないで下さい。繋がってませんよ。養女なので」
思い切り申し訳なさそうにされ、逆にこちらが申し訳なくなる。
気にしていないという証明変わりに、私が告げる。
…似ていないのは、ショックだが。
壁打ちをしながら、色々な雑念を払拭しようと努める。